日本の統計学のパイオニア、杉亨二(すぎこうじ)(1828~1917年)は、統計学をドイツ語の呼称「スタチスチック」と呼ぼうと提唱した▼杉は日本初の統計年鑑を編むなど明治政府で活躍し、退職後は統計学の普及や人材育成に取り組んだ。「統計」の字面には数えて分類するという意味しかなく、統計を基に社会現象を分析するという学問の中身が伝わらないとの理由だった▼スタチスチックの呼称は広まらなかったものの、杉はその後も物の数を並べさえすれば統計とするのは「無方法、無責任の数字」を許すことになると警告を鳴らし続けたという(宮川公男(みやかわただお)著「統計学の日本史」)▼政府統計の不正が見つかった厚生労働省は、インフルエンザの薬タミフルの副作用の実態などを統計学で解明することに失敗。カネミ油症など公害事件の被害者救済が進まないのも統計学の欠如が一因といえる▼発がん物質アスベスト(石綿)がどの建物にどれだけ使われたかを示す統計データもない。統計軽視の空気は霞が関に充満している▼政府によれば「ビッグデータを人工知能(AI)が解析し社会の諸問題を解決する」という「ソサエティー5・0」が日本の目指す姿だそうだ。だが社会が求めるデータを集めようとせず、信用できないデータを自ら作っているようでは冗談にしか聞こえない。