
計144台の換気扇が、奥行き64メートルの両壁に上下2段でずらりと並ぶ。壁から壁へ、牛舎内を横断するように風が抜けていく。
「昨夏の猛暑でも、乳量の落ち込みが少なくて済みました」
大田原市上奥沢の畜産業「グリーンハートティーアンドケイ」の高橋一文(たかはしかずふみ)総務部長(59)が説明するのは、2014年に稼働させた、国内に数カ所しかない新しいタイプの牛舎。従来の屋根のみで壁がない開放型に対し、閉鎖型と呼ばれる。「普通は壁がない方が涼しいと思うよね」と笑う。
牛舎全体に夏場は秒速2メートル以上の風が均一に流れる。牛の体内に熱がこもらないよう空気の流れを計算した作りになっているのがポイントだ。
設置を提案した宇都宮大農学部の池口厚男(いけぐちあつお)教授(農業環境工学)らが行った15年夏の検証では、扇風機による送風と細霧で対策した開放型より、牛舎内の最高気温が2度程度低くなり、熱に対するストレスを表す牛の呼吸数も減った。乳量には1日1頭当たり7キログラムの差が出た。
総事業費は、搾乳ロボットなども含め約1億6千万円。高橋さんは「投資した分、非常に効果は高い。これからの酪農を考えると、暑さ対策はますます欠かせない」と実感する。
本県の酪農は、北海道に次ぐ全国2位の生乳生産量を誇る。県畜産振興課によると、ホルスタイン種が快適と感じる気温は15~25度。近年の夏の気温とは、かけ離れている。昨年7月は、県内で08年以降最多となる1カ月で58頭の乳牛が死んだ。
「去年は県北もやられた。暑さは業界全体の課題」
真岡市内で約80頭を飼う、酪農とちぎ農協の松山秀夫(まつやまひでお)副組合長(64)も頭を痛める一人だ。牛の食欲減退、乳質や量の低下、病気、繁殖成績の悪化。猛暑は負のサイクルをもたらす。
昨夏は扇風機14台、一昨年に導入した細霧装置もフル稼働させた。消化が良い餌を、少しでも涼しい夜に与える試みもした。今後も対策を進めるが「暑さだけでなく、台風も気に掛かる」と吐露する。悩みは尽きない。
牛舎の屋根を白く塗る、日光を反射する素材を屋根に張る、スプリンクラーで散水する、牛の運動場にシャワーを設ける-。松山さんは、同業者のあの手この手をよく耳にするという。乳脂肪分の割合など、消費者が求める品質を保持するためのコストは、暑さとともに増している。
「北海道でも暑さで牛が死んでいる。今の栃木県の気温はかなり厳しい」
池口教授は、対策強化の必要性を訴える。「扇風機や細霧装置の効果を高める使い方、呼吸数をよく観察して早めに対処するなど、複数の対策の組み合わせが重要だろう」
これまで以上に酪農家の知恵と工夫が求められると考えている。