台風19号は、県内の高齢者施設も襲った。県によると、21日午前10時現在、16施設が床上浸水などの被害に遭った。下野市内の特別養護老人ホーム(特養)は、浸水した施設の復旧作業が始まったばかりで、同日も職員が床などの清掃を続けた。宇都宮市内の特養は、2階や屋上に移動する「垂直避難」など当時の状況を振り返り、日頃の備えを再確認した。
指でなぞると、くっきりと跡が残るほど、乾いた土ぼこりが居室や廊下など一面に積もり、一部には今も泥水が残る。
「洗浄が終わったのは(施設の)3分の1ぐらい。来週は消毒です」
姿川沿いに位置する、下野市下古山の特養「いしばし」の山内博之(やまうちひろゆき)施設長(40)が表情を曇らせた。
台風の行方を注視し、12日昼前には入居者ら計53人の避難を決断。同市内にある系列の施設に混乱なく避難させることができた。4年前の関東・東北豪雨で避難した経験や、訓練を行っていた備えが生きた。
同日深夜、周囲の水田は一帯が「海」と化し、「いしばし」の平屋施設は居室や食堂、浴室、ホールなど全て床上浸水した。電気系統やベッドは無事だったが、職員は避難先での高齢者のケアに務めたため、本格的な施設の復旧作業は始まったばかり。「何とか11月上旬を目標に、入居者が戻れるよう頑張りたい」と山内施設長は前を向いた。
「訓練以外で垂直避難を行ったのは初めてだった」
宇都宮市今泉3丁目の特養「いずみ苑」の西大路純子(にしおおじすみこ)施設長(48)は、台風が本県を直撃した12日夜の不眠不休の対応を振り返った。
近くの田川が氾濫し、1階に濁流が入り込んできた。入居者約110人の居室は2~5階にある。「2階も危ない」と直感し、2階の30人を介護用のベッドごと3階以上へ避難させる決断をした。
2台のエレベーターをフル稼働させ、約40分かけて入居者を上の階へ上げ続けた。最終的に浸水被害は1階までだったが、西大路施設長は改めて実感したという。「あらゆる事態を想定し、日ごろから備えることが重要」。
県によると、21日午前10時現在、被害に遭った16施設のうち、半数の8施設で復旧作業が続いている。