古典三大随筆の一つに鴨長明(かものちょうめい)の「方丈記」がある。平安時代末期に都を襲った「安元の大火」に言及した一節には、「炎が地面に吹き付け、空には灰が吹き上げ…」などと惨状がつづられている▼家財を焼き尽くし人命をも奪う火災は古来より、人々の恐怖の的だった。沖縄の象徴である世界遺産の首里城が無残にも焼け落ち、7月には36人が犠牲になった京都アニメーション放火事件が発生するなど、今年も火災にまつわる忌まわしい記憶が増殖していく▼本県で起きた大火を振り返ると、1980年に45人もの命を奪った川治プリンスホテル火災が目を引く。損害額で言えば2003年の那須塩原市(旧黒磯市)のブリヂストン栃木工場の火災が記憶に残る。タイヤ製品約44億円分が焼失した▼県消防防災課によれば、今年1~3月の県内の火災発生件数は概数で304件と前年同期比で78件も増えた。風の強い日が多かったことが背景にあるようだ▼近年の出火原因を見ると、放火とその疑いが最多。寝たばこも目立つ。家の周りに燃えやすい物は放置しない、寝たばこは厳禁などの心構えが必要と担当者は呼び掛ける▼11月9日の「119番の日」にちなんで、秋の火災予防運動が15日まで続く。火災が最も多く発生する寒さと乾燥の時季を前に、改めて火事の怖さを認識したい。