自宅が床上浸水し、横浜市への引っ越しを決意した大川さん(中央)。「みんなの声をお土産に」、12月に新天地へと移る=17日午後、栃木市内

 台風19号で被災し、生活再建を目指しながら、やむを得ず断念した人もいる。自宅が床上浸水した栃木市柳橋町、視覚障害者の大川(おおかわ)イキさん(86)もその1人だ。大川さんは12月、息子が住む横浜市へ90代の夫とともに移る。「みんなの声をお土産に持って行く」-。17日は今春まで活動していた視覚障害者らによる団体がお別れ会を開き、別れを惜しんだ。

 10月12日午後10時ごろ、自宅にいた大川さんがトイレに行こうとした時、浸水に気付いたという。同市内を流れる永野川の堤防が決壊。築50年以上の平屋の自宅は、あっという間に床上まで水が来た。

 多くの部屋が浸水したが、水がかぶらなかった寝具と、台所の一部は大丈夫だった。台所で着替えるなど、現在も制限された生活を強いられている。

 その状況を知った息子夫婦が、自身の家への引っ越しを勧めてくれた。失明する前から住み、どこに何があるか今でも分かる住み慣れた家を離れる寂しさはあった。だが息子の提案を受け入れた。「また水害が来るかもしれない。私も夫も、もう先は長くないと思うとね」

 大川さんの決断を寂しく思う仲間もいた。高齢化で今春解散した市民団体「D-アイ(であい)の会」だ。視覚障害者やボランティアが集まり、20年近く散歩や歌などを通じて絆を育んできた。大川さんも「失明し家に閉じこもっていた私が、みんなのおかげで外に出られた」と感謝する。

 この日は市内にかつてのメンバーが集まり、思い出話などに花を咲かせた。「寂しいけど、頑張ってね」「点字の手紙を送るよ」。メンバーからの呼び掛けに、大川さんは一つ一つ笑顔で応じた。

 慣れ親しんだ地を離れる不安はある。だが大川さんは「みんなの声が励みになった。みんなの声を忘れずに、これから生活していきたい」。心強い仲間の「声」の後押しを受け、大川さんはまもなく新天地へと旅立つ。