土手が削られ、砂利や泥が流れ込んだ水田を眺める佐藤さん(奥)と室井さん

 昨年10月の台風19号の影響で計約66ヘクタールの水田が冠水した大田原市北大和久と宇田川の両地区では、約40ヘクタールで今春の稲の作付けができない見込みとなっている。両地区は良質米の産地として知られる一方、土壌の排水性が悪いことなどから他の作物への転作にはリスクがある。被災から3カ月余り経過した現在も、多くの農家が見通しを立てられずにいる。

 「見れば見るほど、どうしようもないな」

 13日午前、宇田川の室井好巳(むろいよしみ)さん(66)は、土砂とごみが流れ込んだ田んぼを眺めてつぶやいた。田んぼの中には道路のアスファルトの一部がそのまま残されている。

 北大和久の蛇尾川左岸では堤防が約150メートルにわたり決壊。下流の水田が広範囲で冠水した。農業用水を川から取水する「河原大堰(かわらおおぜき)」の頭首工も損壊し、この堰(せき)から水を引いていた水田で作付けが困難になった。

 水田の原状復帰は秋以降になる見通しだ。それには復旧工事の優先順位が関係している。

 現場では堤防の復旧が最優先され、県大田原土木事務所は応急処置を終えた後に本格的な護岸復旧工事の準備を進めており、5月末の完成を目指している。市の単独事業となる頭首工の復旧は、堤防完成後にようやく着工となる。

 今年の休耕を回避するには稲から他の作物に転作する必要があるが、容易ではない。地元農家は「水はけが悪く、基本的に畑作には向かない地域」と口をそろえる。JAなすのの担当職員によると、土壌に地中管を埋め込むなど水はけを良くする工夫が必要だという。二毛作で栽培していた麦の単作に切り替える宇田川の藤田進(ふじたすすむ)さん(69)は「畑作用の農機具を持っていない人も多いはず。稲だけを作っていた人がいきなり他の作物を手掛けるのは難しいと思う」と指摘する。

 両地区の農地や農道の復旧は、国の補助を受けて市が行う。農地の復旧には、流れ込んだ土砂やごみの撤去、畝の修復が必要だ。ソバや大豆に転作する場合は7~8月が主な種まきの時季だが、それまでに仮復旧が間に合うかどうかも見通しが立っていない。宇田川地区では数カ所で市道や農道の通行止めが続き、立ち入りできない場所もある。

 同所の佐藤信夫(さとうのぶお)さん(67)は「通行止めになっているうちは農耕機が通れないので、作業のしようがない。それが解消されれば、気持ちももう少し前向きになると思う」と話す。「この一年は辛抱するしかないね」と来年の「米どころ」復活を願った。