この夏に開かれたオリンピックおよびパラリンピックでは、多様性がクローズアップされました。その中に性の多様性があります。今回は私が家族とシアトルに在住していたときのエピソードを紹介し、性の多様性について考えたいと思います。

 シアトルは性の多様性について世界的にも先進的な都市です。街のさまざまな場所で、性の多様性を尊重する意思表示である虹のシンボルを見ることができます。

 特に、一般には性に対し保守的なイメージのあるキリスト教の教会ですら虹のシンボルを掲げているところが多く、その先進性を象徴的に感じることができたのを印象深く覚えています。

 さて、プリファードプロナウン(preferred pronoun)というものをご存じでしょうか。直訳するなら「希望の代名詞」です。子どもの学校入学などの書類手続きで、名前を記入する欄の隣に必ずこの項目があり「he」「she」のように男か女かを示すもの、あるいは「they」「ze」のように男女に分けないものなどから選びます。

米国シアトルにあるキリスト教会の一つ。性の多様性を尊重する虹のシンボルを掲げている

 英語は代名詞が性別によって異なるため、ある人のことを話すにはその人の性別を判断しないといけないという特徴があります。しかし自分がどのような性として他人から見てほしいか、あるいは隠したいかは、見た目では判別不能であり、自身がどう思っているかのみによって決まります。ですから、新しい集団に新規加入する際にはあらかじめ全員が自己申告するという制度になっているのです。

 自身の性を理解する年齢はさまざまです。考えてみれば当たり前のことなのですが、幼稚園児にすら代名詞の希望を申告させる徹底ぶりに驚きました。

 日本でも学校の先生が児童生徒を名前で呼ぶ際に「くん」「さん」と男女で区別することをせず、「さん」に統一するようになってきましたよね。英語ほどは会話に性別を持ち込まなくて良い性質をたまたま持つ日本語は、このような工夫でこれまでやりくりしてきました。

 しかし、たとえば英語教育を行う上では先述の代名詞の問題がありますし、設備投資が必要となるトイレや脱衣所などの整備も必要です。

 今後は、一人一人の性に対するより多様な希望と権利に寄り添うべく、制度整備がより進んでいくことと思います。

(栗原一貴(くりはらかずたか)・津田塾大教授)