鹿沼市役所旧庁舎

 栃木県の鹿沼市環境対策部参事だった小佐々守(こささまもる)さん=当時(57)=が廃棄物処理業者の依頼を受けた暴力団関係者に殺害された「鹿沼事件」は10月末、発生から20年が経過した。県内自治体は事件後、職員全体で不当要求に立ち向かう意識を浸透させた。結果、暴力団関係者や業者などの組織的要求は激減したが、一般市民による悪質なクレームは後を絶たない。全国ではいまだに不当要求に応じてしまう自治体もあり、根絶までは道半ばだ。

 行政サービスの提供や公的給付の支給などを威圧的な言動、居座りといった手段で要求する不当要求。全国暴力追放運動推進センターなどが全国自治体を対象としたアンケートでは、2003年に30.5%が不当要求を受けていたものの、19年(国の機関含む)は9.2%にまで減少した。

 背景には行政の変化がある。県内自治体は鹿沼事件を受けて、対策マニュアル整備や研修体制を拡充させ、組織全体で不当要求に対峙(たいじ)するようにした。脅迫的な要求が通らなくなり、暴力団は給付金の不正受給など詐欺的手法に切り替えつつある。

 県暴力追放県民センターの担当者は組織的要求の減少要因として、暴力団勢力の衰退を挙げる。警察庁の調べでは、暴力団構成員(準構成員など含む)がこの20年で約7割減少した。

 その一方で、職員の説明のミスにつけ込み、過剰な謝罪を要求するなどの感情的な「個人クレーマー」は増加している。19年の全国自治体アンケートでは、過去1年間の不当要求者は一般市民が67.3%を占めた。

 また、不当要求を受けた自治体の2割弱が要求に応じていた。「トラブル拡大を恐れた」「こちらも一部非があった」が主な理由。担当者個人で対応した例も1割以上あったという。

 県弁護士会民事介入暴力対策委員長の亀岡弘敬(かめおかひろたか)弁護士は「どんな不当要求でも対応を組織内で統一することが必要」と指摘する。一部が応じると、同じ対応をほかの職員にも要求されるためだ。

 近年は不当要求が「ぱったりない」という鹿沼市。事件から20年たった今月、職員にマニュアルの確認を改めて呼び掛けた。佐藤靖(さとうやすし)人事課長は「不当要求は付け入る隙を与えると、一気に入ってきてしまう。事件を風化させてはならない」と気を引き締めている。

 【鹿沼事件】鹿沼市元環境対策部参事の小佐々守さんが2001年10月31日、廃棄物処理業者の不当要求に応じず逆恨みされ、帰宅途中に拉致されて殺害され、群馬県内の山中に遺棄された行政対象暴力事件。事件を首謀したとされる業者、業者に便宜を図っていた市幹部は自殺した。実行役3人と仲介役の計4人は06年2月までに殺人罪などで有罪判決が確定した。小佐々さんの遺族が起こした民事裁判では08年3月、市が責任を認め謝罪することで和解が成立した。小佐々さんの遺体は現在も見つかっていない。