扉を開けると、柔らかな冬の陽光が差し込む明るい部屋。3人の女性職人の笑い声が響く。鹿沼市の山あいにある小さな仏像修理工房「三乗堂(さんじょうどう)」。そこに仏像がなければ、民家のリビングと見まがう空間だ。職人の世界の厳しいイメージとは異なる穏やかな空気が流れている。

 工房の主は長野県出身の井村香澄(いむら・かすみ)さん(32)、神奈川県出身の中愛(なか・あい)さん(32)、奈良県出身の森崎礼子(もりさき・れいこ)さん(33)。

工房で話し合いながら仏像の修理作業をする左から中愛さん、井村香澄さん、森崎礼子さん=2021年12月、栃木県鹿沼市

 出会いは、世界遺産を構成する日光山輪王寺(りんのうじ)(日光市)の「平成の大修理」だった。3人は美術院国宝修理所(京都市)の非常勤職員として参加。期間満了を機に、中さんの呼び掛けに2人が応え、本県に残って独立した。

 「文化財を後世に伝えるお手伝いを」。2017年4月、木工芸が盛んな鹿沼に工房を開いた。かつて日光東照宮造営に携わった匠(たくみ)たちが住んだ地。そこに縁を感じた。

 工房に「親方」はいない。修理以外は主に中さんと井村さんがレプリカや新像の制作、森崎さんが彩色を担う。仕事ぶりを見せてもらうと、黙々と作業しつつ、悩んだ時は気軽に意見を求め合い、手を止めて答える。3人の距離感は絶妙だ。

 中さんは妊娠・出産を機にテレワークとなり、自宅で育児をしながらの作業が多い。「無理しない働き方」も意識する。

 異業種と合同でイベントを企画するなど、地域とも積極的に交わる。修理資金不足を補うため、依頼主に提案してクラウドファンディングを行ったことも。新型コロナウイルス禍で一時仕事の依頼は減ったが、会員制交流サイト(SNS)での情報発信に力を注ぎ、遠方からの依頼も増えた。

 森崎さんは「新たな活動が人との縁となり、新しい仕事が生まれることもある。人と人の輪を広げられるような工房でありたい」と笑顔で語る。

三乗堂の共同代表を務める左から中愛さん、森崎礼子さん、井村香澄さん=2021年12月、栃木県鹿沼市

 輪王寺の風神・雷神像の複製をはじめ、全国各地の仏像を手掛けてきた。今後は栃木に眠る仏像の調査や、職人を目指す若者向けのインターンシップにも取り組む考えだ。「地域の役に立つ活動をしたい。技術や文化財への思いを後世に引き継げるよう、工房を成長させたい」と3人は声を弾ませる。

 三乗堂の名の由来は「3人の縁の掛け合わせで生まれた工房」。3人の女性職人が紡ぐ夢は、しなやかに膨らんでいく。(下野新聞社)

 ※30日付紙面に特集を掲載します。