
この春、長女は高校を卒業し進学した。二十歳を過ぎた長男はアルバイトに通っている。
県央で暮らす母子家庭。山下祥子さん(45)は思う。
「生活保護がなかったら…」。きっと、子育てなんて、できなかった。生きていくことすら。
離婚して、もう10年近く。生保に頼ってきた。
後ろめたさが、ずっとつきまとっていた。「税金で食べさせてもらっている」と後ろ指を指されていないか。
まるで「施し」を受けているような感じ。「恥ずかしい」。世間には隠しておきたかった。
◇ ◇ ◇
長男が幼稚園に通っていたころ。
「ママ友」と出かけた祥子さんと子どもたちが外で食事を済ませ、夫に弁当を買って帰った。
「こんなものを食わせるのか」。激高した夫が包丁を持ち出した。
身がすくんで、助けを呼べない。傍らで幼い子どもたちが泣き叫ぶ。
言葉と身体的な暴力、ドメスティックバイオレンス(DV)を受け続けてきた。
結婚したころ、優しかった夫。でも仕事を辞めてパチンコにのめり込み、借金を重ねるようになってから人が変わった。
もう耐えられない。何度か子どもを連れて実家に帰ったが、その度に夫のいる「家」に戻った。
「ひとり親にしたくない…」
いつも第一に考えてきた子どもにも異変が表れてしまう。
長男は小学校高学年のころから、気に障ることがあると、テーブルのコップをひっくり返す。スーパーでだだをこね暴れ回る。祥子さんにも手を上げるようになった。
包丁を持ち出したこともあった。
「ずっと見せられていたから、仕方がないのかもしれない」。どんどん、夫と同じような言動をするようになった。
結婚から10年あまり、中学生になろうとしていた長男がふいに言った。
「パパと別れて」
「子どものために」と必死に我慢してきた。なのに、子どもたちを苦しめているだけだった。
離婚を胸に決めた。
DV被害者の一時避難施設に駆け込んだ。
◇ ◇ ◇
子どもたちと3人の暮らし。転居と転校、長男は不安定なまま。中学校で不登校になった。
夫から逃げるためにパートは辞めてきた。お金はない。働かないと生きてはいけない。でも、とても家を空けられない。
「子どもが落ち着くまで生活保護を頼るしかない」
(文中仮名)