スーパーには朝の開店直後を狙って行く。前日から陳列され、半額シールが貼られた食料品を探し、手に取る。調理法を思い浮かべ、まとめて冷凍するのが日課だ。
宇都宮市、女性は小学生の子どもと2人で暮らす。福祉関係の非正規雇用の仕事で月の手取りは7~10万円。光熱費など固定費を支払うと、食費に充てられるのは1万円ほど。食料品や電気代、ガソリン代…。さまざまな物価上昇が苦しい生活に追い打ちを掛ける。
学校指定の学用品を用意できず、子どもには周囲と違う物を使わせている。「何でも値上がりするのに給料だけが上がらない」。女性は就職氷河期世代。複数の精神疾患を抱えながら、生きるために働く。
岸田文雄(きしだふみお)首相は物価高騰の理由を「ロシアによるウクライナ侵攻」とし、強力で機動的な原油・物価高対策を進めると強調。野党は政府の金融政策から「岸田インフレ」とやゆし、消費税減税などを打ち出す。
女性は低所得者向けの支援や消費税などの税制見直しを求める。しかし、テレビや新聞で各政党の情報を得る時間や余裕はない。「政治に希望なんて持てない。どうせ助けてくれないなら、誰に投票しても一緒でしょ」。光が見えないでいる。
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価格高騰の波は生産現場も直撃している。
佐野市の大室養鶏場では約1万羽の採卵鶏を飼育し、1日に約8千個を採卵する。大室憲一(おおむろけんいち)専務(48)が頭を悩ますのは、出荷用のプラスチック容器や紙の梱包(こんぽう)材の値上がりだ。出荷コストが10%超上昇し、販売価格を上げざるを得なくなった。
「数十円値上げをしたが、全ては転嫁できない。今の状況が続けばさらなる値上げを検討しなければ」
新型コロナウイルス禍での消費の減少、ウクライナ情勢に伴う穀物価格の上昇、円安進行による飼料高騰-。業界を覆う暗雲を「トリプルパンチ」とし、目先の物価高対策だけでなく「飼料の安定供給など長期的な政策が必要」と求める。
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鹿沼市の農業生産法人ワタナベでは年間に22.5トン、500万円分の肥料を購入する。渡辺宏幸(わたなべひろゆき)社長(51)は「来春購入分は1.5~2倍くらい値上がりが見込まれる」と肩を落とす。「コスト増が積み重なり、将来重くのしかかるのでは」と不安が拭えない。
一人一人にはあらがいがたい物価高。負担増の解消へ政治の力が問われている。