さんぽセルを発案した双子の児童

 ランドセルにタイヤや持ち手などを取り付け、キャリーケースのように運べるようにした商品「さんぽセル」をご存じだろうか。日光市の児童たちが昨夏発案し、今春発売された。重いランドセルによる健康被害「ランドセル症候群」の解消が狙い。体感で約90%の重さを軽減できるという。

 完成品を手にし、満足感と期待に胸を膨らませた児童たち。だが、児童たちはその後、予想外の「事件」に巻き込まれていく。「悔しいし、悲しかった」。児童の一人は当時の心境をそう振り返った。

きっかけは「ゲーム部屋を作りたい」

 2021年8月、日光市にある廃校舎「旧野口小学校」に当時小学4~6年生の児童6人が集まった。廃校の利活用を検討していた地元事業者が、「子どもからヒントを得よう」と、運営するサッカーチームを連れてきたのだった。早速、広い校舎内で自由に遊び始めた。

さんぽセルを開発した児童たち

 子どもの一人が、居合わせた見知らぬ「お兄さん」に声を掛けた。「ここにゲーム部屋を作りたいな」。その「お兄さん」は「じゃあ、自分たちでお金を作る方法を考えてみなよ」と返事し、さらに続けた。「何か悩みはあるかな?」

 すると、児童がとっさに答えた。「ランドセルが重い」

お兄さんの正体

 その「お兄さん」の正体は、大学3年の太田旭さん(21)。大阪市の企画会社「悟空のきもちTHE LABO」のメンバーだ。子どもから要望やアイデアを聞き出し、それを製品化している同社。廃校舎には視察に訪れていた。

 太田さんは児童に「ランドセルを軽くするにはどうすればいいかな」と語りかけ、その場で試作に取り組んだ。材料は校舎内にあった椅子やガムテープを活用した。

 
試作に取り組む児童たち

誰が考案した?

 「椅子の座るところを外して、タイヤだけにして、ランドセルを置くことを思いついた」。小学5年、ゆうや君(10)は当時の状況を振り返る。その後、みんなで椅子の足とランドセルにひもを付けることを考えた。アイデアはその日のうちにまとまった。

 ただし、1年前ということもあり、児童は誰が何をしたのか、正確には覚えていない。タイヤを付けるのを考えたのは誰かという話になると、毎回ケンカになるのだという。

 

警官からの「職務質問」

 このアイデアを具現化したのは、神奈川県のラボを拠点に活動する大学生のメンバーだった。試作品ができると、児童の元に持って行き、実際に試してもらった。「ださい」「重い」…。当初は不評だった。

 その意見を元に試行錯誤を重ねた。途中で耐久性に問題があることが判明し、完成時期はどんどん遅れた。

 「専門家の人たちにも見てもらおう」。自動車の安全部品などを製作する「アオキシンテック」(真岡市)に協力を依頼。商品の強度を高めていった。

アオキシンテックの職人による改良作業

 大学生のメンバー5人ほどが手分けし、耐久テストも行った。7キロほどの重量にしたランドセルに試作品を装着して地道に歩くのだ。岡村さんは「夜中に歩き回って試した。皆合わせると、10回くらいは警察官の職質にあったんじゃないでしょうか」と苦笑する。

耐久テストを行う大学生

ついに完成

 こうして、「さんぽセル」は生まれた。値段は1台5940円。軽量化にこだわり、重さはわずか280グラム。手で握るスティック部分は収縮自在で、歩道橋や階段では通常のランドセル同様、背負える仕様にした。タイヤ部分は交換式で長期間使用できる。

スティック部分は伸縮自在で、通常のランドセル同様背負うこともできる
完成したさんぽセルを手に持つ児童たち

 出来栄えには児童も大学生も満足した。「良い商品を作った。絶対に褒めてもらえる」。そう、確信していた。だが、事態は思わぬ方向に向かっていく。

 (後編に続く。3日正午ごろ配信予定)