
渡辺直明・文 荒井修・写真
長い準備期間をプラスに捉える
―新型コロナウイルスの感染拡大の影響で東京五輪の1年延期が決まりました。自転車ロードレース男子の日本代表は2人で、増田選手は国内選考順位2位につけています。五輪の1年延期によって代表選考が今後どうなるのか現時点では不明ですが、増田選手の五輪出場を大きな目標に掲げてきたチームにとってモチベーション面での影響は大きいのではないですか。
日本代表の選考がどうなるかによりますけど、当初の予定通り今年5月いっぱいで選考が終わるのであれば、現在2番手につけている増田選手は代表に選考されることになります。実際、増田選手にしてもトップの新城幸也選手(バーレーン・マクラーレン)にしても日本代表にふさわしい実力者ですし、どちらもベテランで今回が最後の五輪になると思うので、この2人なら誰も文句はないと思います。もし今年5月で代表が決まれば準備期間が長くとれるので、ポジティブに捉えられるんじゃないかと考えています。
東京五輪出場は増田さん個人にフォーカスされがちですが、チームとしても五輪に選手を輩出するという目標を掲げています。僕も代表選考に向けてチーム全体の士気を上げながら各レースに臨むスタイルが、選手個々の責任感を高め、それぞれの能力アップにつながると思っているので、五輪に向けて全員で盛り上げるチーム作りに取り組んでいます。ですから増田選手の代表が決まった後は、今度は五輪の本番で増田選手が良い走りをするためにチームとしてどう取り組んでいくかという、一つ上の目標を掲げることになると思います。
―五輪という舞台は自転車競技の知名度アップにも大きな機会ですよね。
自転車ロードレースの世界では、オリンピックはそれほど重要でないと思われがちですが、日本国内にあってはオリンピアンとそうでない人とではネームバリューが大きく違っているのが現実です。増田選手に関しては、足りていないタイトルがオリンピック出場だけだと思います。ですからブリッツェンとしては、増田選手のオリンピック出場を生かしてチームがもっと大きくなる機会にできたらと考えています。
今しかできないこともある

―国内での最初のレースとなる予定だったツール・ド・とちぎは、新型コロナウイルスの感染拡大による国際自転車競技連合(UCI)からの国際大会中止要請を受けて本番4日前に中止が決まりました。また、JPTの開幕時期にも影響しそうな状況です。
ツール・ド・とちぎは、今回が最後となる大会でしたから落胆は大きかったですね。今年3月のアジアツアーで台湾に行っていた頃から海外チームが集まらないかもしれないという話がある一方、UCIの特例としてレースを開催できるのではという話も聞いていました。やる方向で進んでいると思っていましたし、走りたかったというのが率直な感想ですね。
こうした状況では、どうしても暗くなりがちですよね。もちろん、選手たちは表向き「前向きに準備します」とか言いますけど、実際問題として気持ちに影響がないかというとそんなことありません。モチベーションを保つのは難しいと思いますが、逆に今しかできないこともあると思って頑張るしかありません。
宇都宮ブリッツェンは、増田の五輪選考に必要なUCIポイントを獲得するため、今年2月から3月にかけてUCIアジアツアーを転戦。増田は2月のワンデーレース「マレーシア・インターナショナル・サイクル・クラシック」(マレーシア・ランカウイ島)でUCIポイント10ポイント、3月の「ツール・ド・台湾」で3ポイントを獲得した。一方、チーム内では増田に次ぐベテラン、34歳の鈴木譲はツール・ド・台湾の全5ステージで粘り強さを発揮し、個人総合時間でチーム最高位の11位と気を吐いた。
―アジアツアーでの走りの感触はいかがでしたか。
今回走ったツール・ド・ランカウイとツール・ド・台湾は、アジアツアーでも屈指のハイレベルなレースでしたが、その中で個人的には良い走りができたと思っています。チームとして何かするというところではまだまだという面もありましたけど、このレースを経験したことでチームとしてステップアップできるという感触がありましたね。
昨年4月のインタビューで、鈴木譲は2018年シーズン終了後にブリッツェンから移籍することも考えたと明かした。理由として「ベテランの一人である自分がチームを去った方が、若手の一人一人が自分でやらなくてはという気持ちになってくれんじゃないかと考えたんです」と若手の奮起を挙げた一方、「昨シーズンは個人の成績も良かったので『もう少し自分のために走ってみてもいいのでは』という迷いが生じたのも確かです」とも。熟考した結果、「ブリッツェンというチームは一致団結しているところがいいところであり、強みだと思っています。そういう部分で、今年はまだ、チームのために自分ができることがあるかもしれないと思い直しました」とチームに残る決断をしたという。
(この記事はSPRIDE[スプライド] vol.36に掲載)