武器を持って特化したメンバーぞろい

 

―昨シーズンを迎える前にチーム移籍も考えたと話していましたが、今シーズン前はいかがでしたか。

 今年に関しては、迷いがなくなったという感じですね。昨シーズンまでは、メンバーが手薄だったり、選手をケガで欠いた場合などに自分が何でもこなさなければならないチーム状況でした。レースの走りとしてスプリントをやったり、先頭を引いたり、上りでも頑張らなければいけない局面もありました。でも、今年のメンバーに関しては、それぞれが武器を持って特化していますから、自分が何でもやらなければいけないという場面は大きく減ると思います。それと、やはりランカウイと台湾で自分のスタイルを貫けるような走りができたことが大きかったですね。

―自分としてやりたいことがやれる状況になってきたということでしょうか。

 そうですね。今季はそういうスタンスでやっていきたいと考えるようになったことで、移籍を考えるような迷いがなくなりました。

―レースについてはまだ不透明な部分が多いですが、ブリッツェンで7年目となる今季の個人として目標をどう定めていますか。

 サポーターの方々からは常々「勝つ姿が見たい」と言っていただいています。ですから、自分の勝利のために走りたいというのが率直な気持ちですね。もちろん、五輪代表選考にかかるレースなどで自分を出すことは難しいと思いますが、チームの中での役割を果たしつつ自分のチャンスをつかみにいくという姿を、これからチームを支えていかなければいけない中堅や若手の選手たちに見せたい思いがあります。

―今年で35歳となりますが、肉体的、精神的な変化を感じることはありますか。

 

 走りのパフォーマンスに関してはそれほど落ちていないと思っています.実際、アジアツアーを振り返っても頑張って走れていましたから。やはり、現在進行形で走れている選手、強い選手にしか若手はついてきません。結果を求められて結果を出せる選手が言うことなら正しいという空気はありますし、強い選手が語った言葉だからこそ、みんなで一斉にとなるわけじゃないですか。そういう意味では、自分は副キャプテンという立場に甘んじることなく常に走れていなければいけませんし、そのために実力を維持していきたいと思っています。

 一方で今は自転車の世界で選手の数が足りていないという印象があります。ブリッツェンの場合は、ベテラン選手が走りながら若手に教えて育てられる環境が整っていますけど、他チームではその環境はないと思います。今うちにはベテランがいるから中堅選手は比較的楽な環境、立場にいられる面があると思いますが、彼らがそれに慣れずに、他のチームに移っても頼りになるベテラン、チームを作れる選手になってもらいたいと願っています。自分はそんな思いで選手生活を続けているのかなとも思いますね。

―ファンに向けてのメッセージをお願いします。

 なかなか難しい状況ではありますが、逆にこの状況を生かして運営会社にはチームの情報発信に工夫してもらっています。それによって普段のレースとは違った選手の一面をファンに見てもらえる機会になっていると思いますし、僕らも安心して活動を続けられています。これまでとはちょっと違った楽しみを味わってもらいつつ、レースが始まるのを楽しみに待っていてもらいたいと思います。

こうした状況下にあると、選手として走れるレースがあるということは幸せなことだとあらためて感じます。例えば今回、コロナで中止になったツアー・オブ・ジャパンは、東日本大震災の時やSARS(重症急性呼吸器症候群)の影響でも中止になっています。スポーツは、平和な社会でないとできませんから、いわば平和の象徴ですよね。ですからスポーツが再開されたら世界が少しは平和になってきたんだなと実感してもらえると考えています。僕ら選手は本当にちっぽけかもしれませんが、社会的な存在であり、レース活動が始まれば観てくださる方々に勇気を与えられるかもしれません。そう思って頑張ろうとあらためて思いますね。

 

鈴木譲 すずき ゆずる 

1985年11月6日生まれ。神奈川県川崎市出身。170㎝、57㎏。オールラウンダー。

(この記事はSPRIDE[スプライド] vol.36に掲載)

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