全日本柔道連盟は27日、東京五輪男子60㌔級の代表選手に下野市出身の高藤直寿(パーク24)を選出した。高藤は銅メダルを獲得したリオデジャネイロ大会に続いて2大会連続の五輪出場となった。2018年11月、高藤は「SPRIDE28号」(2019年1、2月号)のインタビューで「リオで取れなかった金メダルを絶対に取る」と意気込みを語っていた。高藤のインタビュー記事をここに再掲載する。
 
 

 「正直、世界選手権で金メダルを取れなくてもいい」。「天才肌」といわれる25歳の男はこうはっきりと言い切った。2017年のハンガリー・ブダペスト世界柔道選手権に続き、18年のアゼルバイジャン・バクー世界柔道選手権で男子60kg級で優勝し、同大会2年連続3度目の優勝を果たした。ハードな練習を楽しんでいるかのように明るく、インタビュー中も終始穏やかな表情を見せていたが、「五輪」の二文字が出てくると、鋭い目つきに変わり、冒頭の言葉を発した。高藤直寿。リオ五輪銅メダルの悔しさを糧に変貌を続ける「規格外」の男は2020年の東京五輪に柔道人生の全てを賭けている。

斎藤泰行・文 荒井修・写真

 東京都目黒区の駐車場管理業「パーク24」柔道場。同社柔道部の部員が集まってきた。和気あいあいとした雰囲気の中でストレッチをする部員に交じって、真っ赤なコンプレッションウエアに身を包んだ、筋骨隆々の男が現れた。高藤だ。部員たちとともに笑顔で雑談をしながらストレッチに励んでいた。しばらくして白い柔道着に身を包んだ高藤ら部員がバルセロナ五輪金メダリスト吉田秀彦総監督、本県出身の海老沼聖監督と対面して正座し、練習前のあいさつをかわした。

 ―バルセロナ五輪金メダリストの吉田さんが総監督ですが、さすがにオーラがありますね。練習は相当厳しいですか。

 

 ここ最近は会社のメンバーには同じ階級の選手はいないですけど、階級が上の人との乱取りも必要です。吉田総監督は階級も違いますし、技術面で同じことをやるというのは無理だと思いますが、やはりオリンピックで金メダルを取ったレジェンドですし、そういった気持ちの面で心の支えになっていただいています。基本的には自由にやらせてもらっています。試合の前にいつも「最後まで諦めずにやれば絶対勝てるから。気抜かずやれよ」と言われます。普段は優しいですし、距離感もなく、気さくに話していただいています。僕的にも話しかけやすいし、自分の話を聞いてくれる人です。今の練習はすごく素晴らしい環境でやらせてもらっています。

 9月のアゼルバイジャン・バクーでの柔道世界選手権決勝ではロシアのロベルト・ムシビドバゼに優勢勝ちし、2年連続3度目の優勝を果たした。初戦の2回戦から4試合連続の一本勝ちで進んだ準決勝では、世界ランキング1位で東海大の後輩永山竜樹と対戦。延長の末、優勢勝ちした。この対戦は高藤の長所が凝縮された試合だった。投げに体を揺さぶられながら、しぶとくかわしてチャンスを狙う。延長の末、小内刈りで技ありを奪い、勝利を手にした。

—柔道世界選手権では執念の連覇を達成しました。戦いぶりをどう評価しますか。

 2連覇をして当たり前と周囲の人も思っていました。僕自身もそう思っていました。その最低限の優勝、2連覇は達成できて良かったと思っています。

—この大会では宿敵といわれる東海大の後輩、永山竜樹選手に準決勝で延長の末優勢勝ちしました、永山選手についてはどう評価しますか。

 

 永山はすごく真面目な選手です。僕とは性格も違いますが、僕にライバル心を持ってやってきてくれていますね。何と言っても体の力が強いと思います。それが彼のいいところだと思いますね。逆にその彼の強い部分があるからこそ弱い部分もあると思います。そこを狙っていきたいですね。多分、僕を除いたら世界で一番強い選手だと思います。でも作戦通り、思い描いた通りの試合展開になってくれたので、経験でも僕のほうが上だったのかなと思いました。また、次に試合をしても絶対いけるな、という自信にはなりましたね。

—7歳で野木町柔道クラブで柔道を始めて、小学生時代から輝かしい成績を収めてきました。少年時代の思い出でどんなことが印象に残っていますか。

 少年時代は試合数が多すぎで、毎週毎週試合でした。とにかく負けるのがすごく嫌でしたね。負けたらいつも泣いていました。引き分けでも泣いていたので、相当気が強かったんですね。勝ちたくて仕方がなかったんです。今も勝ちたいというのは変わらないですね。

―高藤選手は2014年に結婚され、2児の父です。合宿や試合などで世界中を飛び回る中、なかなか家族サービスもできないのではないですか。

 家にいることが少なくて、子どもにはさみしい思いをさせています。長い休みも取れませんから。出来る限り、家にいたり、何もない日曜日はどこか連れて行ってあげようと思っています。そうしないと忘れられてしまいます(笑)。合宿とか忙しいとできませんから。

ー最近はテレビのバラエティー番組でひな壇で軽妙なトークを披露していました。テレビ番組に出ることで柔道の存在を広く知ってほしいという思いがあるのですか。

 そうですね。ほとんどバラエティー番組には柔道選手が出てこないし、嫌がる選手が多いです。柔道は武士ってイメージがありますから(笑)。そういうイメージだとこれからの時代は柔道をやりたいという人が出てこないと思います。多くの人に見てほしいです。タレントさんとのやり取りも慣れてきました(笑)。なるべく喋るように頑張ってます。 

(この記事はSPRIDE[スプライド] vol.28に掲載)

<<
3件
>>