俺の金メダル第1号になってくれ

吉田総監督が真剣な眼差しを送る中、高藤ら部員は2人1組になって打ち込みや乱取りなどの練習をこなしていく。部員のほとんどが日本でもトップレベルの柔道選手だ。その部員の中でも最も声が出ていて、動作が敏捷なのが高藤だった。真剣でありながら楽しんでいる。そんな雰囲気の練習だった。
—高藤選手にとって柔道とはどういう存在ですか。
柔道がなければ出会わなかった人がたくさんいます。柔道を通じて、今の会社にも入れて、『人生そのものですね』いうとありきたりですが、僕には生まれた時から柔道しかなかったのかな、と今は思っています。
—勝つために必要なことは何だと思いますか。
根性論がダメっていう風潮ですけど、根性っすよね(笑)。正直言って。根性に加えて、激しさと冷静さの間が大切です。最後は、根性とか気の強さっていうのは絶対に出ます。根性論はダメだとか、分かりますけど(笑)。根性も出していかないと。この歳になっても根性は出すものなので。普段の練習から激しくやったり、時には冷静に考えてやってみたり。強弱は大切にしています。
—今日の練習を見ていても高藤選手が一番声が出ていて激しかったように思いました。
練習は楽しいですね。自分のやりたいことができますし、いろいろ考えてできますから。
—高藤選手にとって五輪の金メダルを取ることの意味はどういうものですか。

正直、世界選手権で金メダルを取れなくてもいいです。オリンピックの金メダルが取れれば。そういう気持ちでずっといます。多分、何回世界選手権で優勝してもオリンピックで負けてしまったら一生悔いが残ると思うので、オリンピックでは必ず金メダルを取りたいですね。東京が年齢的にもラストチャンスと思っています。人生の全てを賭けて戦う舞台だと思っています。
—世界最強の柔道家という評価が定着しています。世界最強でありつづけるためには何が求められると考えますか。
まずはオリンピック、オリンピックと先を見過ぎずに目の前の試合を一つ一つ勝っていくというのが一番です。そういう風に考えたら、毎日の練習、一回、一回の練習が大切になってくるので、短い時間でも時間を無駄にしないように過ごしていきたいと思っています。
—柔道日本代表の井上康生監督からは「独創的な観点を持っている」と評価されていますが、どう受け止めていますか。
井上監督の指導によってオリンピックの金メダルを目指し始めました。そういう意味ではとても尊敬していますし、今、こうして監督と選手という立場ですけど、その中でも愛情を感じるというか。東海大相模高、東海大での先輩でもあります。尊敬だけではなく、僕に対して厳しくもしてくれますし、時には優しくしてくれるので、愛情がこもっているなと感じます。
—井上監督の言葉で一番胸に刻まれている言葉は何ですか。
井上監督が監督になった時、僕もちょうど日本代表になったんですけど、世界選手権の時「俺の金メダル第1号になってくれ」と言われました。そういう気持ちで試合にも臨むことができて、優勝することが出来ました。オリンピックでも魔法の言葉じゃないですけど「やることはやってきたから」と。他の人に言われるより、井上監督に言われると「自分は間違っていなかったんだな」と再確認できます。とても力になっています。
(この記事はSPRIDE[スプライド] vol.28に掲載)