
異変が起きている。でもそれが何なのか見えない。
4月下旬、高根沢町内の小学校の教室。
子どもたちが下校するころ、男性教諭(47)が、町教委の渡辺有香さん(29)に話し出した。
「最近、表情が暗いんです」。中学年の女の子のことだ。一度書けるようになった漢字が書けないことがあった。「家庭に問題を抱えているのかな」
うなずき、メモを取る渡辺さん。県内でまだ多くないスクールソーシャルワーカーだ。心理面を支援する専門職の経験があり、小中全8校の子に目を配っている。
経済的困窮、親の精神疾患…。不登校や非行、ネグレクト(育児放棄)の子の背景に、複雑な事情が絡み合うことが少なくない。
教諭は「学校は家庭の問題にまで踏み込みにくい」と身に染みていた。
多忙な学校で、1人の子にだけ手をかける余裕はない。生活保護や困窮家庭向け貸付金など制度のことは、よく分からなかった。
学校や教員に拒否反応を見せる親もいる。
「福祉の視点を持ったパイプ役」。渡辺さんは自らの役割を肝に銘じている。
◇ ◇ ◇
2012年夏。
「親に経済的な支援をできないですか」
中学校を訪れた渡辺さんは、ある男子生徒のことを相談された。
保健室登校や休みが目立ち始めていた。ひとり親になった母親は、気持ちが不安定で日中、働けない。体調が少しよくなる夜、接客の仕事をしているが、生活は苦しい。
「夜、母親の帰りを待ったりして、生活のリズムが崩れたのでしょう」と渡辺さん。
担任は母親に「町に相談に乗ってくれる人がいるので、話をしてみませんか」と勧めた。
少しして、母親が渡辺さんを訪ねてくる。耳を傾け、うつろな目をした母親から何とか聞き出した。
「なるべく昼間の仕事をしたい。子どものことを考えると…」
面談を重ねると、母親の悩みが浮かんできた。就労、精神面…。こうした課題に詳しい県母子自立支援員を紹介した。
翌13年春になって、母親は日中の仕事に就く。
生徒も、登校するようになっていった。
◇ ◇ ◇
同じ漢字を書けたり書けなかったりする女の子。
家庭に足を運んだ渡辺さんは、「家族関係がうまくいっていない」と分かる。それを学校にも伝えた。
家庭や学校、関係機関。それぞれの点が、渡辺さんによって確かな「線」としてつながる。
女の子の表情が暗い理由が見えつつある男性教諭。その気持ちに思いをはせながら、声をかけている。