新千円札の裏面にデザインされていたり、現在もNHKの大河ドラマ「べらぼう」で取り上げられたり、中には子どもの頃、お茶漬けのおまけのカードを集めていたと懐かしがる人なんかもいたりして、何かと身近な存在の浮世絵。もっと知ったらもっと楽しめそうです。


とちぎ歌麿交流館へ
浮世とは、この世のことで、江戸時代に大流行した浮世絵には、江戸の庶民の〝今〟が生き生きと描かれています。美人画を得意とし、「江戸のメディア王」蔦屋重三郎の下で人気の浮世絵師として活躍した喜多川歌麿。その貴重な肉筆画が発見された栃木市は、歌麿ゆかりの地としてまちおこしに励んでいます。
蔵の街大通りに昨年6月オープンした「とちぎ歌麿交流館」は、江戸時代に浮世絵を販売していた絵双紙屋の店先がそっくりに再現され、今にも中から蔦重や歌麿が飛び出してきそうな雰囲気です。
幕府の締め付けなどさまざまな規制を受けながらも、機知を駆使してあの手この手で江戸の人たちを楽しませ、面白がらせた浮世絵。ちょっと興味が湧いてきたら、お気に入りを探しに歌麿ゆかりのスポットをのぞいてみませんか。
(問)歌麿を活かしたまちづくり協議会事務局(栃木市蔵の街課内)☎0282・21・2573

栃木市倭町10-2(旧金澤呉服店)。
午前11時~午後3時(土日祝日は午後4時まで)。
火~木曜休館(祝日は開館)、入場無料。
庶民のアート 感じて遊んで
浮世絵を見てみたいと思ったら、栃木市入舟町にある栃木市立美術館を訪れてみてはいかがでしょう。現在開催中の企画展「壱からわかる!浮世絵超入門+オドロキの超応用編」では、美人画だけでなくさまざまなジャンルの浮世絵に出合うことができます。
栃木市立美術館へ
浮世絵が誕生したのは、江戸時代。その少し前までの日本絵画は、中国美術の影響を受けたものが多く、しかも朝廷や寺院など、ごく限られた人の中だけで扱われるものでした。一方で浮世絵は、人々の身近な暮らしや出来事が描かれ、庶民にも広く親しまれました。
版画で大量生産できたため安価で提供でき「当時の値段で1枚が、かけそば1杯くらい。今なら430円くらいでしょうか。浮世絵にはおもちゃ絵といった子どもでも楽しめるものもあり、子どもたちもお小遣いで買って遊んでいたようです」と同館学芸員の形井杏奈さん。また、軽くて値段も安い浮世絵は、お土産品としても人気があり、参勤交代で江戸にやって来た武士たちも買っていたといいます。
多彩なジャンルがある浮世絵の中でも、早くから人気を集めていたのが美人画と役者絵。江戸時代後期の旅行ブームとともに描かれるようになった風景画、お花見など四季折々の楽しみや不気味なもののけなども人気のあるテーマでした。
今ならさしずめ推しのアイドルのブロマイドやポスター、SNSやテレビの旅ルポ、そしてホラー…。
浮世絵の大きさは、大判が縦39㌢、横27㌢ほど。その半分や4分の1サイズのものもありました。大判を3枚並べた大画面や変則的な形のものも。美人画や役者絵は、部屋に飾ったり、うちわにしたり、ほとんど現代と変わらないような楽しみ方をしていたことがうかがえます。
形井学芸員は「そのままでも十分に楽しめますが、何か〝謎〟が隠されているのかなと思って鑑賞してみるのも面白いと思います」と話します。気になる一枚を見つけて、ぜひ作品をじっくり眺めてみてください。
「壱からわかる!浮世絵超入門+オドロキの超応用編」9月23日まで。午前9時半~午後5時(入館は午後4時半まで)。月曜休館(祝日は開館、翌日休館)、8月19、20日休館。一般800円、中学生以下無料。(問)同美術館☎0282・25・5300。





もっとディープに
風景画 広重vsターナー
「オドロキの超応用編」では、ともに19世紀前半に活躍し、〝広重ブルー〟で印象派に影響を与えた浮世絵師歌川広重と印象派の先駆けといわれるイギリスを代表する風景画家ターナーの日英風景画対決という珍しいコラボを実施。
写実的で緻密なターナーのモノクロの銅版画(エッチング)と色彩豊かな広重の木版画を見比べてみると、広重が描いた浮世絵のデザイン性の高さを実感することができるのでは。
最後に「はて?」と考えさせられるのが、現代美術家福田美蘭のオフセット印刷による「富嶽三十六景 神奈川沖浪裏」。世界的に知られる葛飾北斎の代表作を前に鑑賞者が試される作品。あれっ、と気付いた後には、浮世絵の魅力に引き込まれているかもしれません。


そぞろ行く 浮世絵の街 蔵の街
江戸情緒を満喫
街の中心部を流れる巴波川(うずまがわ)で江戸時代に始まった舟運による交易で商都として栄えた栃木市。
今では遊覧船が観光客の人気を集めています。明るい笑顔の船頭さんが軽快な語り口で街の歴史を案内。「栃木河岸船頭歌」で旅情をさらに盛り上げます。
■蔵の街遊覧船 乗船時間は約20分。乗船料は大人1000円、小学生以下700円。幼児は大人1人につき1人無料。ペットなど300円。栃木市倭町2-6。☎0282・23・2003。午前10時~午後4時。(季節、天候、イベントなどにより中止や時間の変更あり)


江戸期創業、老舗の味
かな半旅館
江戸時代後期、安永年間(1772~80年)創業の老舗旅館。昼はランチを提供しています。
お薦めは揚げナスとひき肉を卵でふんわりとじた「かな半特製丼」(950円)。同旅館に残されていた江戸時代の献立表を10代目女将の羽鳥泰子さんが再現した「江戸御膳」(2200円※2人以上、4日前までに要予約)も評判です。
旅館の蔵からは大河ドラマにも登場する大田南畝の狂歌も発見されていて、巴波川の舟運で栄えた豪商たちと江戸の文化人の宴会の場であったことも伺えます。
午前11時半~午後2時(LO)。日、月曜、第1火曜、祝日休み。栃木市万町5-2。☎0282・22・0108。


専門店、今も商品豊富
毛塚紙店
創業は江戸中期といわれる300年続く紙専門店。大通りに面した重厚感のある黒漆喰の見世蔵は栃木を代表する景観の一つとなっています。
店頭には色とりどりの折り紙やレターセット、はがきなどがずらりと並んでいます。浮世絵の描かれたうちわや紙風船はお土産にもお薦め。店の奥には、友禅柄の和紙や板締めやむら染め、烏山和紙なども。書道や工芸、インテリアに使える紙が豊富にそろっています。
午前10時~午後6時。日曜、第2・4土曜、祝日(8月9~17日)休業。栃木市倭町10-3。☎0282・23・2008。

