拝啓 トーマス・ブレーク・グラバー様
あなたが亡くなってちょうど100年目のことです。奥日光は、約160キロも先から飛んできた人工の有害物質によって汚されてしまいました。
2011年3月11日午後2時46分。日本の観測史上最大の地震が東日本を襲い、揺れや津波で多くの人々が大切な家族を亡くし、住まいや財産を失いました。
津波はさらなる悲劇を招きます。電力会社が福島県沿岸で稼働していた発電所に到達。設備が海水に漬かるなどして、結果的に大規模な爆発が連続で起こりました。
東京電力福島第1原子力発電所(原発)事故です。
世の中にある全ての物質は、極めて小さな「原子」で成り立ち、その中心には「原子核」があります。原子核は、あなたが亡くなった年に、あなたの故郷の英国で物理学者が発見したものです。
一般的に原発は「ウラン」という物質の原子核が分裂した時に発生する熱で発電します。福島もそうでした。
原発は利点も多いですが、深刻な事故があると動植物に悪影響もある「放射性物質」が大量に放出されます。
それを、人間が目や鼻で感じることはできません。放射線量が下がりにくく、私たちを悩ませる「放射性セシウム」もその一つ。ひどく汚染された福島原発周辺は住民が避難を余儀なくされ、誰も住めなくなりました。
放出された放射性物質を含んだ雲のような塊「放射性雲」は風で流され、雨に混じって東北や関東の広い範囲に降り注ぎました。栃木県北部や西部で目立つ汚染は、3月15日午後の雨の影響が大きいと言われています。
ただ、奥日光は少し事情が違ったようです。
15日午後、奥日光では濃い霧が観測されていました。汚染が広がった経緯を調べている日本原子力研究開発機構の研究員堅田元喜(かたた・げんき)さん(35)は「霧は雨よりも放射性物質を取り込みやすい可能性がある」として、霧が汚染の主な要因だったとみています。
放射性雲は関東の上空1000~1500メートルを通過したとされるため、高地にある奥日光では放射性雲が地表にぶつかった可能性もあります。その裏付けとなるのかもしれませんが、奥日光の男体山(2486メートル)や女峰山(2483メートル)の山頂付近では、汚染の度合いが山の中腹と比べて明らかに低いことが分かっています。
グラバーメモ
■重ねた故郷の面影
手つかずの自然が残る奥日光は国内屈指の名勝として知られる。
県日光自然博物館によると、奥日光は「いろは坂」登り口から、金精峠の間に広がる地域を指す。日光国立公園の区域内で、開発などが厳しく規制されている。
気候は北海道に似ており、夏は涼しい半面、冬の寒さは厳しい。2千メートル級の山々に囲まれた狭いエリアに、中禅寺湖や華厳の滝、戦場ケ原などの名所が凝縮された様子は「自然の箱庭」と称され、多種多様な動植物も生息している。
中でも中禅寺湖の景観は、世界的観光地として名高い英国の湖水地方やスコットランド高地にも例えられ、欧米人観光客も目立つ。
グラバーの中禅寺湖にまつわる史実を掘り起こした日光近代史研究家の福田和美(ふくだかずみ)さん(66)は、日本に骨をうずめた先人の心境を推し量る。「二度と帰れない故郷の面影を奥日光に重ねていたのだろう」

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