本がくれた再生の場所 宇都宮のシェア型書店の店員 夜が孤独な暗闇からぬくもりに
夜に見つめる 第3部「交差」①
3月下旬の午後6時過ぎ。宇都宮市のオリオン通り脇にあるブックカフェ「KMGW BOOKS(カマガワブックス)」を訪ねた。サクラが咲く中でも少し冷え込んだ。温かい飲み物を求める客に店員の大塚信子(おおつかのぶこ)さん(55)が「カフェオレ、600円です」と穏やかに声をかけ、手渡した。
2024年4月に開店した店は、個人が有料で本棚を借り、好きな本を持ち寄れるシェア型書店だ。ほどなく顔見知りの2人が「元気?」と顔を出した。日中の仕事を終えてから訪れる「棚主」も多い。
書籍を愛する人々が行き交う店は大塚さんにとって「再生」の場所でもある。閉店前の緩やかに流れる時間の中で「私のことを気に掛けてくれる人がやってきてくれる。今の私にとって、夜はほっと安心できる時間です」とほほ笑む。
◇ ◇
午後7時前。店を訪れた知人の棚主が、閉店作業を手伝ってくれた。外に出していた本や棚をしまう。「お疲れさま。これで大丈夫そう?」「ありがとう」。そんなささいなやりとりが心を軽くしてくれる。
店に出会う前、仕事もプライベートもうまくいかず、ふさぎ込んだ。多忙によるストレスで体調を崩し、昼夜逆転の孤独な生活になった。20年近く勤務した小売店を退職し、夜は薄暗い部屋でこもる日々が数カ月続いた。
「夜は…本当に苦しい時間でした」。いつ退職し、日々夜明けをどう迎えたのか。つらい時間の記憶は正確にはたどれない。
ただ未明にテレビで見た米大リーグ、大谷翔平(おおたにしょうへい)選手の活躍に勇気づけられたことは覚えている。「野球に全く興味がなかったのに急に大谷選手だけは応援するようになってしまいました」と小さく笑った。
◇ ◇
「ガラスの仮面」「ベルサイユのばら」-。子どものころから漫画が大好きだった。大人になってからは「不思議の国のアリス」など海外のファンタジー小説にはまった。逆境に負けずヒロインが戦う物語にいつも勇気と希望をもらった。
店の存在を知ったのは偶然見たテレビのニュースだった。「好きな本を置き、知ってもらえる」。ニュースを見た直後にすぐに申し込み、棚主になった。熱心に通ううち、生活リズムを取り戻した。「ここで働きたい」と熱意を訴え、昨年から本格的に働き始めた。
棚やレジの管理、ドリンクづくり、本の発注などを日々忙しくこなす。人通りが少なくなった閉店後の午後8時前。明かりが残るコンテナ型の店内から、棚主が参加するLINEのオープンチャットに売り上げと様子を送信した。
「天気が良く、混み合う時間がありました」「棚主さんが3人来てくれました」などと記し仕事を終える。本と共にある毎日を夜に振り返り、救われる。
「本、そして棚主さんと関わって仕事ができる。自分自身の心が元気になれる。そんな大切な場所なんです」
最近、気になる絵本を見つけ、棚に置いた。「よるとひる」。昼の生活しか知らない「しろいねこ」と夜にだけ起きる「くろいねこ」が、互いの暮らしを紹介する。最初は夜を怖がっていたしろいねこが夜を気に入る。最後はくろいねこと夜に暮らすことを決める。結末は夜の危うい魅力を描いているようにも見える。
「しろいねこはなぜ夜に行ってしまったのか…」。かつて夜が苦しみでしかなかった大塚さんは、孤独で先の見えない記憶がよみがえり、釈然としない気持ちにとらわれたこともあった。しかしいま見つめる夜は心を温めてくれる。
店には怪談作家、夜の街を撮影する写真愛好家、会社員ら多様な棚主が集う。客も常連から県外の観光客まで幅広い。店を起点にして周辺ではさまざまなイベントも開かれ、人の輪が広がるのを感じる。
本の側に居場所と再生のきっかけをくれた街中の小さな書店。本離れが続く中、環境が厳しいのは重々承知。「この場所を守っていけるよう力になりたい」とつぶやいた。

ポストする




