拝啓 トーマス・ブレーク・グラバー様
あなたの古里が放射能でひどく汚されたのは、実はチェルノブイリ原発事故が最初ではありません。
1957年10月10日、イングランド北西部のセラフィールドにある原子力施設で、原子炉の火災事故が起こり、放射性物質が欧州各国にまき散らされました。さらに併設の工場は放射性廃液をアイリッシュ海に垂れ流し、北海や北欧の海などを広範囲に汚染したのです。この工場は原発から取り出された「使用済み核燃料」の再処理のため稼働し、日本からも相当量を受け入れていました。
そう。あなたが愛した海や川が汚染された問題の一端には、日本の原発の存在もあったのです。
福島の事故を受け、日本やドイツでは原発の運転中止が相次ぎました。最大の顧客が離れたセラフィールドは主要工場の閉鎖を決め、燃料として再利用するはずだった放射性物質「プルトニウム」が大量に残ることになりました。各国の原子力政策の負の遺産ともいえるプルトニウムは、核分裂による膨大なエネルギーを使った殺りく兵器「核兵器」に転用される可能性もあるのですが…。
それでも、英国政府は積極的に原発建設を進めています。欧米では初めて、中国産の輸入も決めました。輸入に対しては、安全保障などを理由に国内で異論が広がっているのも事実です。
老朽化した原発が多い英国は、原子炉を解体する「廃炉」の先進国でもあります。廃炉には途方もなく長い歳月と膨大な費用を要します。約20年前に廃炉工事が始まったスコットランド南西部のハンターストンA原発で、作業が完了するのは半世紀以上も先の2080年ごろ。事故があったチェルノブイリや福島の原発では、作業中のトラブルも絶えず、21世紀のうちの廃炉は難しいとみる専門家すらいます。
英国政府からの権限移譲で、スコットランドでは現在、自治政府が行政を担っています。2014年には英国からの独立の是非を問う住民投票があり、独立反対派が僅差で上回った経緯もあります。
独立賛成派が率いる自治政府は、核兵器廃絶や脱原発を主張しています。そして、2020年までに風力発電など環境負荷が少ない「再生可能エネルギー」だけで需要分を賄うという、世界で最も意欲的な目標を掲げています。
あなたの古里が今後どんな道を歩むのか。原発のリスクと化石燃料の枯渇が指摘されて久しい中、その成り行きに世界の関心が集まっています。
グラバーメモ
■福島事故後の原発事情
東京電力福島第1原発事故以降、安全性への懸念から西欧では脱原発の動きが進んだ。とはいえ世界的には原発推進国が主流で、導入を目指す新興国も増えつつある。
国際原子力機関(IAEA)によると、10日現在で31の国・地域で稼働する原子炉は445基(停止中含む)。米国が最多の100基でフランス58基、日本43基、ロシア35基、中国33基と続く。建設中の原子炉は64基に上る。
事故後に脱原発を鮮明にしたのはドイツとスイス。それぞれ2022年、34年までの全原発廃止を決め、イタリアでは11年6月の国民投票で原発凍結の継続を確認した。一方でエネルギー転換が進まず、目指す原発廃止の実現性が不透明になっているベルギーのような例もある。
エネルギー安全保障や二酸化炭素削減、人口増を背景に、アジアや東欧の新興国では原発需要が拡大傾向にある。特に中国とロシアの伸展は著しく、輸出国としての存在感も高めている。そんな中、IAEAや国際エネルギー機関は、2030年までに20カ国が原発を新規導入し、40年の原子力発電量は現在比60%増になると予測している。

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