大正生まれの亡き母の話。空襲があると警報のサイレンがけたたましく鳴り響き、物置小屋の床の下に掘った防空壕(ごう)に身を潜める日々だった。

 敵に撃ち込まれた弾で屋根に穴が開き、雨の日などバケツだけでは足りなくて、たらいや鍋を総動員して雨漏りを受け止めた。

 家のあちこちで奏でられる滴の音が、さながらオーケストラのようで、わびしく切なかったという。