記録的な高温や極端な豪雨-。2018年、国内を襲った異常な気象は、多くの人々の命を奪った。地球温暖化による気候変動が進めば、こうした現象が日常になるかもしれない。気候変動の影響は、県内にも確実に迫ってきている。

(気候変動取材班)

豪雨災害や干ばつ予測

温暖化する世界 

「気候システムの温暖化には疑う余地がない」

 国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、第5次評価報告書(2013~14年)で、こう断言した。IPCCは各国の政策決定の基礎とするため、地球温暖化について最新の科学的成果を報告書にまとめている。

 2018年秋に公表した特別報告書では、世界の平均気温は工業化以前(1850~1900年の平均値)に比べ、既に約1度上昇していると指摘。現在のペースなら10年間で0・2度上昇するという。

 原因は人間の活動、主に18世紀半ばの産業革命以降の二酸化炭素(CO2)など温室効果ガスの排出とされる。温室効果ガスは、太陽からの光によって暖まった地表から放射される熱を吸収し、大気を暖める。

 温室効果ガスの濃度が今後も上がり続ければ、気温もさらに上がり続ける。IPCC第5次評価報告書によると、今世紀末の世界の平均気温は近年に比べ、排出量を厳しく抑えた場合でも0・3~1・7度、厳しい対策がなされないと2・6~4・8度、それぞれ上昇する可能性が高いという。

 温暖化が進めば、熱膨張や陸上の氷河、氷床の融解などで海面の水位上昇が進むほか、極端な高温や豪雨、干ばつによる被害が増えることなどが予測されている。

 2015年に採択された気候変動対策の国際的な枠組み「パリ協定」では気温上昇を2度未満に、できれば1・5度未満に抑えることを目標としている。ただ既に約1度上昇していると指摘したIPCCの特別報告書では、早ければ30年にも1・5度に達するとし、同協定に基づく現在の各国の取り組みでは1・5度までに抑えられないとした。

 

 特別報告書では上昇幅が1・5度と2度の場合の影響も比較し、1・5度なら海面上昇のリスクにさらされる人は、2度に比べ1千万人少ないと推定。夏場の北極海で氷がなくなる頻度の可能性は1・5度で100年に1回なのに対し、2度なら少なくとも10年に1回となるという。

 一方で、同報告書は50年ごろに温室効果ガスの排出を「実質ゼロ」にするといった1・5度に抑えるための道筋も示している。その実現可能性について、国立環境研究所地球環境研究センターの江守正多(えもりせいた)副センター長は「現状の延長では難しいが、シナリオで描けているということは、可能性は残されている」と話す。

 

宇都宮は九州南部並みに

今世紀末の本県

 地球規模の温暖化の影響は当然、本県も例外ではない。

 「宇都宮市が今の九州南部の気候になると考えてほしい」。宇都宮地方気象台の担当者は説明する。現状のまま温室効果ガスの排出が進めば、今世紀末に県内の年平均気温は20世紀末に比べ、約4度上昇すると予測されているという。

 

 宇都宮市の年平均気温の平年値(1981~2010年の平均値)は13・8度。4度上がれば、宮崎市(17・4度)や鹿児島県枕崎市(18・1度)に並ぶ。

 既に日本の年平均気温は19世紀末以降、100年当たり1・19度の割合で上昇。宇都宮市でも100年当たり2・2度、奥日光でも1944年以降、50年当たり0・7度上がっている。

 

 加えて宇都宮市の平均気温上昇は、緑地減少やアスファルトの蓄熱などで都市部の気温が下がりにくくなる「ヒートアイランド現象」も要因と考えられている。宇都宮大の瀧本家康(たきもといえやす)助教(気候学)は、市内で観測したデータを基に「温暖化による上昇に、ヒートアイランド現象の影響が上乗せされている」と指摘する。

 

 夏はいっそう過酷になり、長く続くことになる。厳しい温室効果ガスの排出削減を行わなければ、最高気温35度以上の猛暑日数は、宇都宮市で現在(平年)の年間4日程度から約30日増える。30度以上の真夏日、最低気温25度以上の熱帯夜の日数も60日程度増す。

 雨の降り方も変わる。「滝のように降る」と例えられる1時間に50ミリ以上の非常に激しい雨の発生回数は、本県で現在の4年に1回程度から2年に1回程度の頻度になる。半面、雨が降らない日も増え、降れば大雨、降らなければ日照りと極端になる。

 台風は、発生数は減りそうだが、ひとたび発生すると発達して強度が増すと予想される。最強クラスの「スーパー台風」が日本に到達する可能性もあり、大規模災害が懸念される。

 

増える熱中症、農業被害

県内にも影響

 

 39・2度。2018年7月23日、佐野市で県内史上最高の気温を更新した。全国的に記録的な猛暑に襲われた昨夏。熱中症による救急搬送者数は、本県で08年の統計開始以来最多となる1548人に上り、うち4人が死亡した。

 

 気象庁などによると、熱中症による死亡者数は全国で増加傾向にある。現状のまま温室効果ガスの排出が続き、温暖化が進めば、本県の熱中症救急搬送者数は今世紀半ば、今の2倍以上になると予測されている。

 気候変動の影響は、さまざまな分野に及ぶ。

 農業では、暑さによる生育障害や品質低下が懸念される。米は高温で粒が白く濁ったり、割れたりする。県内にも産地がある梨、ブドウ、リンゴなどの果樹は日射や高温によって日焼け、着色不良、果肉障害の恐れがある。一方で栽培適地が変化し、新たな作物を栽培できるかもしれない。

 本県は酪農で全国2位の生乳生産量を誇り、畜産も盛んだ。18年7月は猛暑の影響で、牛69頭が死んだ。暑さは搾乳量や乳成分、繁殖成績、肉質の低下も招いてしまう。

 国立環境研究所の岡和孝(おかかずたか)主任研究員は「温暖化で栽培の限界が来る農作物も出る。農業は地域で何をブランド化し、守るかという哲学にも関わってくる課題」と指摘する。

 多くの県民の命に直結する災害のリスクも増す。15年9月の関東・東北豪雨では県内各地で土砂崩れ、河川氾濫、市街地冠水などが相次いだ。3人死亡、住家被害約6千棟、26万人超への避難指示・勧告など大きな被害をもたらした。

 九州北部豪雨(17年)、西日本豪雨(18年)など大規模災害が後を絶たない。気候変動の影響に詳しい法政大の田中充(たなかみつる)教授(環境政策論)は「個別の災害と温暖化を結び付けるのは難しいが、温暖化が進むにつれ、異常気象や大規模災害発生の頻度、確率が増すと考えられる」と強調する。

 南方系の植物やカエル、チョウの分布拡大など身近な自然の変化も観測されている。春のサクラの開花は早まり、秋の紅葉は遅れる傾向にある。本県の地域文化や風土、風習と深くつながる季節感が変わってしまう可能性もある。

 

 

緩和と適応、対策の両輪

相乗効果に道

 気候変動への対策は、大きく二つに分けられる。

 一つは、二酸化炭素(CO2)やメタンなど温室効果ガスの排出抑制や植林によるCO2の吸収など、原因物質の削減を図る「緩和」と呼ばれる対策。もう一つは「適応」と呼ばれ、気候変動の影響に対して、私たちの暮らしや社会の在り方などを調整し、被害を回避、軽減していく対策だ。

 例えば、温暖化によって品質が低下してしまう農産物に関して高温に強い品種に変えたり、作付け時期をずらしたりすることは適応の代表的な取り組み。熱中症への対策、気候変動に伴う集中豪雨など自然災害への備えも適応に当たる。

 海面上昇で水没の危機に直面する地域などからの移住も適応と言える。適応は幅広く、国立環境研究所の岡和孝(おかかずたか)主任研究員は「国だけでなく自治体も個人も、それぞれの立場で対策を取ることが重要だ」と話す。

 一方、適応策に取り組むことで、緩和を諦めてよいわけではない。「緩和策を怠ると、より大きく、早期に気候変動の影響が生じ、より大きなコストを適応策にかけざるを得ない事態が生じる恐れがある」と、東京都市大の馬場健司(ばばけんし)教授(環境政策論)は指摘。「両方のシナジー(相乗)効果を高めるよう、両輪で実施する必要がある」と語った。

 

都道府県の役割重要

気候変動適応法

 国の気候変動対策は、1998年に成立した地球温暖化対策推進法(温対法)によって進められてきた。ただ温対法は緩和策に主眼が置かれ、適応策に関してはこれまで法的な位置付けがなかった。

 適応の重要性への認識が各国で深まる中、国は2015年、農業や健康など分野ごとの影響や基本的な施策などを示した「気候変動の影響への適応計画」を作成し閣議決定。2018年6月には気候変動適応法が成立し先月、施行された。

 適応法では、国や地方自治体、事業者、国民の役割などが定められている。地方自治体は努力義務として、地域に応じた適応計画の策定や、情報の収集・提供などを行う拠点「地域気候変動適応センター」を確保するよう求められている。

 日本列島は南北に長く、気候変動の影響は地域によって異なる。そのため適応策を進めるには地方の役割が大きい。本県は先月、計画の策定方針を表明した。環境省の担当者は「都道府県の計画策定は最低限のライン」との認識を示し、同センターについては「各地域で設置が進むもの」と期待している。