咲き始める宇都宮市のサクラ。同市での開花は50年で1週間ほど早まっている=昨年3月26日午前、同市の新川桜並木

 那珂川町白久の田園地帯に、「花の寺」として知られる長泉寺がある。毎年、春の境内を400株以上のボタンが彩る。

 「例年は4月末ごろに開花、ゴールデンウイークで満開になる。大勢が見に来ますよ」。堀江龍見(ほりえりゅうけん)住職(71)が庭に目をやる。

 だが、昨春は違った。春先が暖かかったせいか、4月半ばには咲き始め、5月に入り見頃は過ぎた。「20年ほど育てているが、こんなに早いことはなかった」

 例年より格段に早い開花は昨年、各地で相次いだ。

 日光市本町の日光田母沢御用邸記念公園。名物のシダレザクラは4月9日、満開を迎えた。「通常、見頃は4月中旬から下旬。昨年のピークは異例の早さだった」と担当者は振り返る。

 足利市迫間(はさま)町の「あしかがフラワーパーク」でも、名高い大フジの見頃が例年より2週間ほど早まった。運営会社の早川公一郎(はやかわこういちろう)社長(38)は「急きょ『大藤まつり』の前倒しを判断した」と語った。

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 花の開花時期は毎年前後するため、その推移、傾向は捉えにくい。だが植物と気温の関係は深く、長期的に見れば、気候変動の影響は浮き彫りになる。

 気象庁によると、宇都宮市のソメイヨシノの開花は、この50年で約7日早まった。統計を取り始めた1953年からの10年間で3月中に開花を迎えたのは1回のみ。直近の10年間(2009~18年)では6回を数える。一方、同市のカエデの紅葉は50年で約16日遅くなり、近年の紅葉日の平均は11月16日になった。

 生物の季節現象と温暖化の関わりに詳しい龍谷大の増田啓子(ますだけいこ)名誉教授(環境気候学)は「サクラの平均開花日が早まり、カエデの紅葉が遅くなっていることは、それだけ夏が長くなり、冬が短くなっているということだ」と明言する。

 こうした変化は、私たちの季節感にも影響する。

 鹿児島国際大のデビッド・マクマレイ教授は、温暖化と俳句の季語の変化を研究している。冬場まで長引く紅葉の色づきなどを例に、従来とは異なる季節の風物詩が俳句に混在しつつあると現状を受け止め「地球温暖化の影響で、日本人が持つ季節感は大きく変化していく」とみている。

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 サクラは、開花が早まるだけでなく、将来咲かなくなるかもしれない。

 九州大の伊藤久徳(いとうひさのり)名誉教授(気象学)によると、ソメイヨシノは十分な低温にさらされないと咲かない。そのため温暖化が進めば、今世紀末には九州南部の一部などで開花しない地域や、満開にならない地域が出てくると予測される。

 「満開のサクラを見ると、なぜだか心が洗われるような気がする」。伊藤名誉教授は願うように言う。「ずっと残ってほしいが」

 当たり前の春が、静かに変わっていく。その兆しは、もう目の前にある。