陽光で輝くオレンジ色の果実をつかむと、子どもたちは歓声を上げた。

 「もう10個も取ったよ」

 標高200メートル台の山あい。那須烏山市小木須の国見地区の観光ミカン園で昨年11月上旬、宇都宮市から来た保育園児ら約100人が、ミカン狩りに夢中になっていた。

 県北のミカン産地として知られる同地区。この地で栽培が始まったのは、半世紀以上も前のことだ。

 当時、国見地区のある農家に、かんきつの一種「福来(ふくれ)ミカン」の古木が植わっていた。これをヒントに、先人たちが「温州ミカン、なるんじゃねえか」と植えてみたところ、数年後に実がなったのがきっかけらしい。

 地区の農家川俣昭一(かわまたしょういち)さん(84)によると、1962年から12戸が2・5ヘクタールで栽培に挑んだ。

 かんきつ研究の第一人者で愛媛大教授だった故村上節太郎(むらかみせつたろう)氏も訪れ、「味はともかく、ミカンはできる」とのお墨付きを得たという。実際、酸っぱく固かったが、「北限のミカン」として脚光を浴び、観光客でにぎわった。

 温州ミカンに適する年平均気温は15~18度。かつて「酸っぱくて震える」とまで言われた国見のミカンだが、「最近は夏の暑さや暖冬の影響か、『甘くなったね』と言われます。糖度も12度くらいある」と、川俣さんは語る。

 図らずも温暖化への適応の先駆けとなったが、いまは後継者不足に悩んでいる。ミカン農家は5戸に減り、70、80代がほとんどだ。

 「いつまでできるかとは思います。でも、ミカンがあったから道路や観光施設ができ、国見をPRできた。できるだけ頑張っぺ」

 温暖化が進めば作物の南限、北限は変わってゆく。

 将来を見越して、かんきつの試験栽培を進めているのが、サクランボや西洋梨などが有名な山形県だ。

 「スダチの方が、温州ミカンよりも耐寒性がありますね」。日本海に面した同県酒田市にある県庄内総合支庁産地研究室の農場。その一画に植えられたかんきつ類の木々を前に、同室の安孫子裕樹(あびこゆうき)開発研究専門員が説明した。

 21世紀末の東北地域では年平均気温が3度程度上昇するとの予測がある。このため、同県は2010年、温暖化への対応に向けたビジョンを策定。適応策の一つとして、かんきつ栽培はスタートした。

 栽培を進める中で、適応性が高い品種も見えてきた。温州ミカンはなかなか糖度が上がらないが、スダチは品質が良く、最近は1本あたり1千個以上の実を収穫できる年があるなど収量も期待できるという。

 現在は地元の飲食店や旅館に販売。「北限のスダチ」として利用拡大を図っており、一部の農家でも栽培が始まっている。「地元産業への貢献にもつなげていきたい」。安孫子さんはそう願っている。