35年前の厳冬時に全面結氷した中禅寺湖。以来、完全に凍った姿を見せていない=1984年2月、日光市中宮祠(福田政行さん撮影)

 

 抜けるような青空が広がる。右手に男体山。眼下に、一面が凍り付いた中禅寺湖を望む。

 1984年2月、湖の南東側に位置する茶ノ木平から撮影された1枚の写真。中禅寺湖漁業協同組合長の福田政行(ふくだまさゆき)さん(70)が写した。

 その年は、厳冬だった。特に2月の奥日光の平均気温は前年より3度以上低い、氷点下8・2度。当時の本紙は同15日付1面で「ほぼ全面結氷して観光客を驚かせている」と報じている。

 「寒く、晴れた日の昼前だった。この年は豪雪。雪が湖に入り、冷えたのだろう」。福田さんは振り返る。

 中禅寺湖は最大水深が163メートルと深く、水の容量が大きいため、そもそも全面結氷はまれだが、過去には幾度か例がある。出版物などで確認できる例は1920年代~40年代にかけて数回。そして84年を最後に、これまで35年間にわたって全面結氷していない。

 国内の平均気温が100年当たり1・19度上昇している。こうした中、かつてのように全面結氷しなくなった湖は、富士五湖の河口湖など各地にある。

 湖の水温分布などを研究する日本大の大八木英夫(おおやぎひでお)助教(自然地理学)は「全面結氷の湖として知られる北海道の倶多楽(くったら)湖も、完全には結氷しない年が出てきている」と話す。温暖化傾向が続けば、いずれ永年不凍湖になる可能性があるという。

 中禅寺湖畔では年平均気温が50年当たり0・7度上昇。中禅寺湖も凍結しない方向に進んでいると分析する専門家もいる。

 再び厳しい寒波が来て、全面結氷する日は来るのだろうか。福田さんはつぶやく。「条件がそろえば凍るだろうが、怪しいとこだな。生きているうちはないかもしれんな」

 気候の変化を鋭敏に感じている人がいる。

 「硬くて良い氷になるよ」。昨年12月30日早朝、日光市御幸町の製氷池。氷点下5度。山本雄一郎(やまもとゆういちろう)さん(68)は氷面のちりを削り取りながら、満足そうに笑った。

 空模様を読み、氷を張らせる。人が乗っても割れない5センチまで育った。順調にいけば1日1センチずつ厚くなり、15センチほどで切り出す。

 2006年、約1世紀続く天然の氷作りを先代から継いだ。切り出した氷は県内外で、かき氷などで楽しまれている。質の高い氷作りには、安定した晴天と放射冷却による十分な冷え込みの積み重ねが必要だ。だが、その条件が得られにくくなっているように思う。

 先代の頃はひと冬で3回、採氷できたこともあった。今は「何とか2回」。10年前には1回しか採れない年もあった。

 先を見据え3年前、標高がより高い、近くの霧降高原に新たな製氷試験場を造った。市北部の土呂部で氷作りを試したこともある。「異常が10年に1度から5年、3年に1度になるかもしれない」。備えは不安の裏返しでもある。

◇   ◇

 変貌しつつある気候。その影響は県内にも迫る。第1部は身近な異変の兆しから-。