昼食を共にしようと待ち合わせた日光市内のファミレスに、青年が姿を見せた。秋だとはまだピンと来ないほど暖かい昨年10月中旬。

 「仕事は楽しいというか、楽しくなるようにしてますよ」

 夜勤明けで眠い目をこすりながら、近況について話し始めた。

 一生(かずき)さん、25歳。県北にある食品製造販売会社の工場で、原料供給の現場を任されている。県立高校を卒業し、就職して7年目。昨年係長に昇進した期待の若手社員だ。

かつて通った、困窮する家庭の子どもや親を支援する居場所へと続く道を歩く一生さん。当時の思いを語り始めた=2023年12月上旬、日光市内
かつて通った、困窮する家庭の子どもや親を支援する居場所へと続く道を歩く一生さん。当時の思いを語り始めた=2023年12月上旬、日光市内

 中学生だった10年前に、子どもの貧困の実相を追った連載「希望って何ですか」に匿名で登場してもらった。以来、節目節目での交流が続いている。

 現在は会社からほど近い場所にあるアパートに一人で暮らす一生さん。「彼女はできた?」と問うと、「今は仕事が恋人。というか仕事だらけです」と目尻を下げ、いたずらっぽい笑みで返してきた。人懐っこい柔和な雰囲気は、初めて会った頃から変わらない。

 でも、中学1年生の春まで、一生さんの暮らしはとても苦しいものだった。現在の暮らしぶりなど全く想像できないくらいに。

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