昼食を共にしようと待ち合わせた日光市内のファミレスに、青年が姿を見せた。秋だとはまだピンと来ないほど暖かい昨年10月中旬。
「仕事は楽しいというか、楽しくなるようにしてますよ」
夜勤明けで眠い目をこすりながら、近況について話し始めた。
一生(かずき)さん、25歳。県北にある食品製造販売会社の工場で、原料供給の現場を任されている。県立高校を卒業し、就職して7年目。昨年係長に昇進した期待の若手社員だ。

中学生だった10年前に、子どもの貧困の実相を追った連載「希望って何ですか」に匿名で登場してもらった。以来、節目節目での交流が続いている。
現在は会社からほど近い場所にあるアパートに一人で暮らす一生さん。「彼女はできた?」と問うと、「今は仕事が恋人。というか仕事だらけです」と目尻を下げ、いたずらっぽい笑みで返してきた。人懐っこい柔和な雰囲気は、初めて会った頃から変わらない。
でも、中学1年生の春まで、一生さんの暮らしはとても苦しいものだった。現在の暮らしぶりなど全く想像できないくらいに。