労働者と雇用側のトラブル解決に当たる栃木労働局の「個別労働紛争相談」の2023年度の件数は、延べ5322件と過去10年間で最多だった。内容別では「いじめ・嫌がらせ」が1459件と全体の約3割を占め、8年連続で千件を超えた。「自己都合退職」に関する相談も808件あった。
ハラスメントなど職場の人間関係にかかわる問題意識の高まりや、人手不足を要因とした労使間の考え方の相違などが背景にあるとみられる。貴重な人材と労働力の確保は雇用側にとって喫緊の課題である。雇用側は相談窓口を設け、まず社内で早期解決を目指し、働きやすい環境の整備に努めるべきだ。
栃木労働局によると、23年度の「いじめ・嫌がらせ」の内容は、同僚の無視や先輩が仕事を教えてくれない、「給料泥棒」と暴言を吐かれた-などの事案があった。上司から「自分で考えろ」と言われたことがあったため相談しないと、「なぜ言わないんだ」と怒られたケースなどもあったという。
「自己都合退職」にかかわる相談は、全国的な人手不足を背景に「会社を辞めさせてもらえない」といった内容や、「後任が見つかるまで残ってほしい」と引き留められるなどのケースだった。
問題の解決に向けては、同局が雇用側に法律上の助言や指導を行うほか、栃木紛争調整委員会による「あっせん」がある。23年度は75件のあっせんが受理され、上司の嫌がらせで休職し苦痛を受けたと主張する社員と雇用側が委員を介して話し合い、雇用側が解決金を支払うことで合意した例もあったという。
問題がこじれる前に、雇用側は相談窓口の設置と周知に努め、申告があれば双方の言い分をよく聞いて解決策を探るべきだ。企業のトップが、いじめ・嫌がらせはもちろん、「ハラスメントは一切なくす」などと従業員にメッセージを送ることも重要だろう。
一方、個別労働紛争相談は同局と県内七つの労働基準監督署に在籍する非常勤職員計12人で対応している。しかし年々増える相談に対し、人員はほぼ10年間変わっていない。相談者の話は長くなりがちで、4~5時間に及ぶケースもあるという。体制の見直しなど相談員の負担軽減に向けた取り組みも急ぎたい。