増加するインバウンド(訪日客)を農村地域に呼び込むため、県は本年度から「とちぎの農村グローバルビジネス推進方針」に基づく取り組みを始めた。農家などに滞在する「農泊」を軸に誘客を図り、雇用創出や所得向上につなげて、農村地域の「稼ぐ力」の強化を目指す。

 人口減少が進む中、訪日客の誘致は農村の活性化にもつながる。農業をはじめ商工観光業、まちづくり団体など、地域の関係者が一丸となって受け入れ態勢を整備し、農村全体に利益をもたらす仕組みを作り上げることが成功の鍵となるだろう。

 本県は豊かな自然や日光の二社一寺をはじめとする文化遺産、温泉、酒蔵、生産量日本一のイチゴや宇都宮のギョーザなど、魅力的な資源が多い。しかし農村地域への誘客は、受け入れ態勢が十分でないため、インバウンド需要に応えきれていない。

 県内で農泊に取り組む地域の延べ宿泊者数は、新型コロナウイルス感染拡大前(17~19年)は年平均約2万人。このうち訪日客は約1300人だった。県は推進方針の最終年となる2028年度に延べ宿泊者3万人、訪日客2千人の目標を掲げる。

 観光庁によると、訪日客のリピーターは地方を選ぶ傾向があり、都会や観光地ではできない地方ならではの「体験」を買う「コト消費」へのニーズが高い。

 本県では、先駆的に農泊に取り組んできた大田原グリーン・ツーリズム推進協議会(大田原市)が2月、農林水産省の「農泊インバウンド受入促進重点地域」に選定された。観光地域づくり法人(DMO)大田原ツーリズムを中核法人に、約180軒の農家と連携し、農業をはじめ自然、文化、工芸などの体験プログラムを提供している。23年度の外国人延べ宿泊者は1234人だった。

 このように事業を推進する主体となる組織を、他地域でも整備する必要がある。県は各地域の体制づくりを支援するため、とちぎ農山漁村発イノベーションサポートセンター(県農業振興公社内)に、専従職員を配置した。28年度までに県内六つのモデル地域を選定し、受け入れ環境の整備も支援する。

 本県の農村の価値を見つめ直し、地域一丸で取り組めるよう関係団体が協力し、合意形成に努めてほしい。