県内の学校でオペラを分かりやすく上演する県オペラ協会の「いきいき音楽体験事業」が子どもや保護者に好評だ。プロが手がける歌や劇など本物の音楽を体感できる貴重な機会である。本県の音楽文化振興にもつながる取り組みだけに、活動の内容充実を期待したい。

 事業は公益財団法人日本教育公務員弘済会県支部と県連合教育会によるもので、音楽教育の向上と児童生徒の豊かな心を育むことなどが目的。2019年度から協会が委託を受けて始まった。例年、冬に県内の小中高校、義務教育学校、特別支援学校から希望を募り、選考した6校を秋ごろ巡回している。

 オペラは声楽と器楽、演劇に舞台美術などが融合した「総合芸術」といわれる。しかし「欧州中心の題材で外国語の劇は分かりにくい」といったイメージから、盛んに演奏される「第九」などと比べ一般的になじみが薄く、ファン層の広がりを欠くなど課題もあった。そこで同事業は子どもが楽しめる演出を心がけたという。

 有名な童話を題材に日本語で歌い、器楽はピアノに限定。プロジェクションマッピングや劇中、場面展開時の舞台裏紹介を加えることでオペラのエッセンスを抽出した。

 工夫した演出は「五感を刺激し印象に残った」「子どもの音楽に対する考え方や感受性が豊かに育まれた」など各校から評価され、19年度に21校だった希望校数が本年度は47校と倍以上に増加した。協会の村山哲也(むらやまてつや)会長(69)は「会員の日程調整に苦労するが、うれしい反応が多い。今後もいいものをつくりたい」と手応えを感じている。

 協会の会員約40人の多くはプロの声楽家で、本業と折り合いをつけながら事前の準備や当日の運営までこなしているという。コロナ禍だった21年度には、公演の代わりに制作したDVDを希望校に配布した。音楽の裾野を広げるこうした地道な活動を今後も続けていきたい。

 今月は栃木、小山両市で市民オペラが上演されており、その魅力を浸透させる素地はある。この機に協会には、事業実施校の児童生徒と共演する新作オペラのお披露目など、一歩踏み込んだ事業にも挑戦してほしい。感動を体感した小中高校生らが増えることは、将来の音楽文化発展にもつながるはずだ。