心肺停止した患者の心臓の働きを電気ショックで正常に戻す自動体外式除細動器(AED)の使用率が、依然として低迷している。2022年に県内で心肺停止で救急搬送された患者2370人のうち、市民がAEDを使用して救助したのは28人に過ぎない。使用率1・18%である。
使用率は前年よりわずかに上がり、全国順位も41位から21位に上がった。しかし過去10年間は使用率1%台にとどまっており、救えるはずの命が救えなかったことを示唆している。使用率向上の鍵は設置台数の増加と適正配置、市民の意識向上である。県や県内救急医療関係者は、改善に向けた道筋を示すべきだ。
不整脈の「心室細動」や「心室頻拍」が原因で心停止した患者には、電気ショックによる蘇生が必要となる。迅速な措置が患者の生還を左右するため、日本では04年に一般市民のAED使用が解禁された。
消防庁によると、心肺停止で倒れる場面を目撃された人のうち、市民がAEDを使ったケースの1カ月後の生存率は約50%。使われなかった人に比べ4倍ほど高い。
効果は明らかなのに使用率が上がらないのは、AEDの台数不足が考えられる。県は県内公共施設の設置状況を19年の2255台を最後に、正確に把握していない。新型コロナウイルスの対応で手が回らなかったようだが、「必要な時にそこになかった」ことはないだろうか。まずは、その検証が求められる。
次に考えられるのは、AEDの周知と啓発不足である。使い方が分からないはまだしも、そもそも何の機械であるか、分からない人も少なくない。「そこにあったけれども使われなかった」というケースはなくしたい。
県はAEDの周知啓発のため、県政広報番組や消防関係者などによる講習会の実施などに取り組んでいるという。だが、これまでの実績を見る限り効果を上げているとは言い難い。これまで以上に学校や事業所、自治会などできめ細かい普及活動が必要だ。
近年は民間でもAEDを設置する施設が増えてきた。ただ、設置しただけでは不十分なことは、これまでの実績が示している。一般市民も使い方を積極的に学び、使用が必要な状況に遭遇したらためらわずに扱えるよう、日ごろから備えたい。