クマによる人的被害の多発を受け、人の生活圏に侵入したクマに対し、自治体の判断でハンターの発砲を容認する「緊急銃猟」を含む法改正を政府が目指している。住民の不安軽減につなげたい考えだが、国や県はすべての判断を自治体任せにしないほか、ハンターが結果責任を問われることのないよう、きめ細かな支援を行うべきだ。
おととし8月には日光市中宮祠の宿泊施設にクマが侵入し、約20分間施設内を徘徊(はいかい)したことがあった。宿泊客や従業員約10人がいたため、リアルタイムで事態が把握できていれば「緊急銃猟」の対象となる可能性のあるケースだった。
また、昨年8月にも同所の集合住宅内にクマが侵入した形跡があったほか、那須町高久乙の宿泊施設敷地内にクマがいるのを宿泊客が目撃している。
改正鳥獣保護管理法案では、人の生活圏に現れ、危害を及ぼす恐れの大きい「危険鳥獣」を新設する。ヒグマ、ツキノワグマ、イノシシが対象方針で(1)住居や乗り物に侵入するか、その恐れが大きい(2)危害防止が緊急に必要(3)銃猟以外では的確、迅速な捕獲が困難(4)住民に弾丸が当たる恐れがない-との要件を満たせば、市町村長が緊急銃猟の可否を判断できる、とする。
北海道では市の要請を受け、ヒグマを駆除した地元猟友会の男性が「弾丸が建物に届く可能性があった」として、道公安委員会から猟銃の所持免許を取り消された。男性は撤回を求めて提訴したが、昨年10月札幌高裁で敗訴し、上告しているケースがある。
こうした不利益を受けないよう、今回の法改正には建物に弾が当たり損害が出ても、ハンターでなく市町村長が損失を補償。けが人が出た場合も、ハンターの責任が問われない方向で調整している。
ハンターが確実に仕留めるとは限らない。手負いのクマが、さらに興奮して危険性が高まる可能性もある。そのため、事前の通行制限や避難指示が必要な場合も想定できる。すべての可能性を含め、責任を持たねばならない市町村長の判断は、決して容易ではない。
当初は、国や県のこまやかな支援がなければ、現場は円滑な指揮が難しいのではないか。国は、発砲マニュアルの作成などを急ぎ、市町村長をサポートすべきだ。