心と体の性が一致しない性同一性障害の性別変更を定める「性同一性障害特例法」が施行されて20年が経過。昨年11月末までに、宇都宮家裁は160人超の性別変更を認めた。その後、外観手術なしで認められたケースもあり、変更件数は増加傾向にある。

 当事者の希望がかなえられる一方、公衆浴場など男女空間の適切な区分について、いまだに議論が尽くされていないのが現状だ。まずは、社会的理解を深めることが重要で、法整備も含め立法府が積極的な議論をし、世論を喚起することが求められる。

 特例法は2004年7月に施行された。要件として、医学的に性の不一致が認定されることに加え(1)成年(2)未婚(日本では同性婚ができないため)(3)未成年の子がいないこと(4)生殖能力を欠いていること(5)性器の外観が変更後の性別に適合する手術を行ったこと(外観要件)-の五つを課した。

 同家裁によると、05年に2人が申し立てし、30代女性の男性への変更が県内初だった。その後毎年複数の当事者が変更を認められてきており、14年に初めて10人となった。過去20年を前半(04〜13年)と後半(14〜23年)に分けると、39人から115人と3倍近くに増えており、顕著な増加傾向がうかがえる。

 県内では申し立て却下の事例は報告されておらず、当事者の訴えが一定の基準で認定される流れが確立されたといっていいだろう。その中で、新たな課題として浮上したのが「外観要件」の是非だ。

 昨年7月、外観要件について広島高裁が「『身体への侵襲』を受けない権利を放棄し手術を受けるか、性別変更を断念するかの二者択一を迫るもの」として違憲の疑いがあると判示した。

 昨年12月には、県内でも県南在住の60代男性が、外観手術なしで女性への変更を認められたことが、関係者への取材で分かった。全国的にも数少ない先進事例とみられる。

 こうしたケースに合わせて、誤解も含んだ批判が発信されるケースが後を絶たない。「自称するだけで男が女湯に入れるようになってしまう」という類いの言説だ。関連法令の整備で男女空間の適切な区分は可能になる。

 差別意識の迎合を排する社会的な合意形成が何よりも大切で、国会は一刻も早く法整備の議論を始めるべきだ。