足利市ゆかりの名刀で国重要文化財(重文)の「山姥切(やまんばぎり)国広」誕生の歴史をひもとく特別展が3月23日まで、市美術館で開かれている。見どころは、山姥切を作刀する際に手本とした名刀「本作長義(ほんさくちょうぎ)」(重文、徳川美術館所蔵)との同時展示だ。足利でのそろい踏みは作刀時の1590年以来、435年ぶりという。
奇跡的な巡り合いをひと目見ようと、全国から20~30代の女性を中心に多くのファンが駆け付け、市内の商店街や観光施設なども活況を呈している。この人気を一過性の「特需」に終わらせず、永続的な地域活性や観光誘客策に生かしてほしい。
安土桃山時代の刀工堀川国広(ほりかわくにひろ)は、日向国(現宮崎県)出身。鍛冶をなりわいとした父に技術を学び、50代で足利を訪れる。本作長義を所蔵していた足利領主長尾顕長(ながおあきなが)の命を受け、山姥切を鍛刀した。刀剣の専門家は「足利を流れる渡良瀬川から採取された良質な砂鉄があったからこそ、名刀を生み出すことができた」と解説する。
近年のブームの火付け役となったのが、2015年に始まったオンラインゲーム「刀剣乱舞」だ。山姥切をモチーフとしたキャラクターは作中トップランクの人気を誇る。市美術館が過去2回にわたり開催した山姥切の展示には計6万人以上が訪れ、計9億円の経済波及効果があったとされる。
今回の特別展は、市が出資する公益財団法人「市民文化財団」が昨年3月に山姥切を取得したことを記念して企画された。市は4万人超の来場と過去最高の経済波及効果を目標としている。
来訪したファンからは「足利に移住したい」「観覧を契機に足利市民と交流するのが楽しみ」といった声も出ているという。こうしたファンらを落胆させぬよう、官民挙げたおもてなしに努めたい。また、貴重な地域資源を移住促進につなげるような特色ある施策を市は積極的に打ち出してもいいだろう。
山姥切は「歴史と文化が香るまち足利」を象徴する宝といえる。だが、市民がその価値や意義を正当に認識しているだろうか。3億円の購入額に、その妥当性をいぶかる声が一部にあったのも事実だ。関係者は情報発信にも力を入れて市民の理解促進を図り、シビックプライドの醸成にも心がけてほしい。