自民党旧安倍派(清和政策研究会)の裏金事件のキーパーソンがようやく国会の場で口を開いた。その証言は「知らぬ存ぜぬ」の派閥の幹部と明らかに食い違う。証人喚問など幹部を国会に招致し、真相解明を図らなければならない。
衆院予算委員会は、旧安倍派の元事務局長で会計責任者を務めていた松本淳一郎(まつもとじゅんいちろう)氏(政治資金規正法違反罪で有罪判決が確定)の参考人聴取を非公開で実施した。
焦点は、派閥パーティー券の販売ノルマ超過分を還流するシステムを、2022年4月に中止を決めながら復活させた経緯だった。松本氏は、同年7月に派閥幹部から再開を求められ、8月の塩谷(しおのや)立(りゅう)、下村博文(しもむらはくぶん)、西村康稔(にしむらやすとし)、世耕弘成(せこうひろしげ)4氏による協議で再開を決定したと明言した。
しかし、塩谷氏を除く3人はこれまで「結論は出なかった」と関与を否定。下村氏は復活を求める派内の声を伝えた、と明らかにしつつも、「いつ誰がどこで復活させたのか、私も分からない」と述べた。松本氏の証言と大きく異なる以上、幹部にただす必要がある。
旧安倍派の簗和生(やなかずお)衆院議員は衆院政治倫理審査会(政倫審)で「派閥の指示に従い対応したに過ぎない」と主張。上野通子(うえのみちこ)参院議員は参院政倫審で、還流の経緯を派閥幹部に尋ねたが真相は不明だとして「問題を解決しなければ、自民党に対する国民の疑念はなくならない」と指摘している。こうした訴えを真摯(しんし)に受け止めてもらいたい。
もう一つの核心部分は、裏金システムを、いつ、誰が、どんな目的で始めたのかという点だ。注目すべきは萩生田光一(はぎうだこういち)氏の衆院政倫審での証言だ。
03年の衆院初当選時に派閥事務総長から、ノルマ超過分を政治活動費として返すとの説明を受けたという。当時の派閥会長は森喜朗(もりよしろう)元首相。旧安倍派では派閥のカネの取り扱いは会長案件だったとされるが、森氏以降の会長は故人でもあり、何らかの形で元首相から事情を聴くのが不可欠だ。
自民党は参考人聴取で幕引きを狙うが、疑惑の根幹の解明にほど遠い状況では、許されない。幹部に松本氏の証言との矛盾点を説明させ、「けじめ」となる。石破茂(いしばしげる)首相も実現へ指導力を発揮してもらいたい。