生物多様性をはぐくむ貴重な平地林を守ろうと、小山市は「市平地林保全・管理計画」をまとめた。市議会と共同で2023年に行った「ゼロカーボンシティ&ネーチャーポジティブ宣言」、24年に改定した「生物多様性おやま戦略」を受けた計画で、県内では先進的な取り組みとして注目される。
生物多様性の損失を食い止め、回復軌道に反転させる「ネーチャーポジティブ」の実現には平地林の保全と適正な管理が重要な役割を果たす。一方、市内の平地林面積は03年の約1150ヘクタールから23年は約800ヘクタールと約3割減少した。このギャップを埋めるために、行政が主導して住民への理解醸成を進めるべきだ。
計画では現状と課題を踏まえ、市内全域を対象に(1)保全制度の充実(2)担い手育成(3)保全・管理活動支援-の三つを施策の柱とした。さらにモデル樹林候補地を選定し、望ましい保全管理方針を定めた。
制度面の充実では、平地林面積の多い地区で保全推進エリア指定を目指す。生態系ネットワークの核となる地域を、都市緑地法に基づく特別緑地保全地区とするほか、独自に「おやま保全緑地」(仮称)を設け、公有地化も広げていく考えだ。
計画に先立ち市は昨年3月、民間所有の平地林の寄付受け入れを始めた。本年度は間々田地区の2カ所計約3225平方メートルについて申し出があり、公有地化が実現した。このうち1カ所では今月、市民参加型の保全管理活動を行う。今後も市民や企業を対象とした研修・講座やイベントなどを積極的に展開し、目に見える形で平地林の公益的役割の重要性を広めてほしい。
平地林はかつて、薪炭や落ち葉さらいといった農業生産活動の場として活用されてきた。だが担い手となる農家の高齢化などで人の手が入らなくなり、動植物の生息環境の変化で質的な低下につながっている。山や急傾斜地が少ない市内では開発のしやすさも相まって、宅地造成や資材置き場、太陽光発電パネルの設置などが進行している。
市が昨年、市内の平地林所有者に行ったアンケートでは3割以上が「自分で管理したい」との考えを持っていることも分かった。平地林の多面的機能を踏まえ、土地所有者の維持管理費用補助など負担軽減に向けた仕組みの検討も急ぐべきだろう。