本県がドクターヘリを導入して15年が過ぎた。獨協医大病院を拠点に、医療機器や医薬品を装備したヘリコプターに救命救急医や看護師が同乗し、現場で重傷患者らの初期治療を担いつつ医療機関へ搬送する。2010年1月の運航開始から出動件数は1万件を超え、これまで無事故で運航を続けている。
「空飛ぶ救命室」は、本県救急医療に欠かせない存在として着実に根付いてきたと言えよう。引き続き安全運航を第一に、一刻を争う現場で最大限の力を発揮し救命率の向上や後遺症の軽減などに努めてしてほしい。
県ドクターヘリは同病院敷地内のヘリポートに待機しており、運航は本田航空(埼玉県川島町)に委託されている。強い風雨などの悪天候を除き午前8時半から日没30分前まで稼働し、消防の要請から3分以内に離陸して県全域に15~20分間で到着できる。群馬、茨城両県のドクターヘリとも連携し、出動要請が重複した場合などに相互に応援する体制も取っている。
今年2月末までの出動件数は計1万137件に上り、1日当たりの平均出動件数は1・84件だった。交通事故などに伴う外傷をはじめ、心血管疾患や脳血管障害への迅速な対応で患者が助かったケースは少なくないという。救える命を確実に救う事例を日々積み重ね、救命医療のさらなる向上に役立てたい。
一方、出動要請後に患者の軽症などが判明し離陸後にキャンセルになった件数は近年、全体の10~15%程度という。「ランデブーポイント」と呼ばれる県内のヘリ離着陸地点は増え続け、初年度の358カ所から24年度は621カ所と1・7倍になっている。消防は「空振り」を恐れることなく、積極的な要請を心がけてほしい。
ドクターへリの課題の一つは夜間運航だろう。国内の57機は安全面を考慮し、運航は昼間に限られている。事故や急病の発生は昼夜を問わない。24時間体制にするには操縦士や医師・看護師の人材確保、拠点病院やランデブーポイントの照明施設整備など多額の費用が見込まれ、実現は難しいとされている。
しかし、巨大地震などの大災害は、夜間に発生しないとは限らない。平時の救命率アップとともに、有事を想定した夜間運航体制の構築を国や各都道府県は検討すべきだ。