ほかにも部や課を越えた七人のメンバーが集められ、二週間に一度、こうして集まってああでもないこうでもないと議論しているのだが、なかなかいいアイデアが浮かばない。時間だけが流れていく一方だ。
「赤羽(あかばね)さん、そちらでやってる移住体験、応募者って集まっちゅうの?」
メンバーの一人に訊(き)かれた。あまり答えたくない質問ではあったが、訊かれてしまったので正直に答える。
「今月は二名。来月は今のところゼロだね」
「あちゃー、そいつは厳しいのう」
堅魚(かつお)市での生活を体験してもらうため、市内にある空き家で数日間、過ごしてもらうイベントを去年から実施しているが、応募状況は決して芳しいものではない。同じような企画を県内全域の自治体が実施しており、どうせ住むなら風光明媚(めいび)な場所がいいのか、希望者はそちらに流れてしまうのである。苦肉の策として先月は移住体験者募集のポスターを全職員に配布し、このポスターを都市圏に貼ってくれ──たとえば東京の大学に通っている息子とか大阪に住んでいる親戚等々──と依頼をかけた。奨吾(しょうご)自身は大学時代の伝手(つて)を頼り、東京の友人にポスター五枚を送った。
「無理な話なんちやね。うちの市、これといった特色もないし」
「そうそう。無個性やきね」
早くも白旗が上がっている。この二十年、堅魚市の人口は緩やかに減り続けている。当然である。入ってくる者より出ていく者の方が多いのだから。
堅魚市は高知県中部にある人口約六万人の地方自治体である。主要産業はビニールハウスなどを利用した果樹栽培だ。県庁所在地である高知市に隣接していることから、車で高知市内に通勤していくサラリーマン家庭も多い。目玉となるような産業もないし、全国的に注目を集めるような観光資源もない。平成の大合併時に堅魚市という名前が採用されたが、県内においてもカツオの漁獲量は下位に甘んじている。何から何まで中途半端な地方都市。それが堅魚市だ。