足利市のシンボルとして市民に長年親しまれる渡良瀬川に架かる中橋の3連アーチの移設工事が完了した。昭和初期に造られた全国でも珍しいアーチを下流側へ移した。
中橋の架け替えは、懸案だった治水安全性の向上を図ることが大きな狙いで、市民の生命や財産を守る重要な整備事業である。新たな橋の設置や通行形態の変化などに戸惑いや不安を感じる市民もいるだろう。事業主体の国、県、市は引き続き理解の促進に努め、市民も一体となって関連事業を進めてほしい。
1936年に開通した中橋の取り付け部分は堤防より約3メートル低く、国の重要水防箇所の中でも特に危険度が高いAランクに位置づけられている。2019年の台風19号では川の水位が上昇し、越水の危険が迫った。
県などは3連アーチを10メートル下流に移設した上で、元の橋があった場所に車道用の新橋を整備し、堤防をかさ上げする工事に取り組んでいる。総事業費は約107億円で28年春の完工を見込むが、建築資材や人件費の高騰で費用は膨らむ可能性がある。
アーチの移設は、1連ごとに1月27、2月18、25日の計3回に分けて実施した。国内に数基しかないという750トンのクレーン2基を使用してアーチ(250トン)を6~7メートルつり上げ、下流の橋脚に移すという全国的にも極めて珍しい難工事だった。工事を通じて、3連アーチの価値や重要性を再認識した市民も多いのではないか。
課題もある。架け替えに伴い、両岸の取り付け道路は高架構造となる。市中心部へと向かう左岸側の高架橋はJR両毛線をまたぎ、県道桐生岩舟線に接続する。交差点改良で交通渋滞が緩和されるものの、近隣住民の中には高架化に伴う「街の分断」を懸念する意見もある。
地元説明会では「バリアフリーに配慮してほしい」との要望が寄せられたため、県などはエレベーター1基を設置する方針を決定した。今後も市民の声に真摯(しんし)に向き合い、事業を進めるべきだ。
活性化に成功している地域では、「まち歩きが楽しめること」というケースが少なくない。節目ごとに中橋周辺で集客イベントを開くなどして、まちづくりに活用することも可能だろう。架け替えて良かったと思ってもらえる事業を目指したい。