記録的な不漁が続いていた奥日光・中禅寺湖のヒメマスは、ほとんど自然繁殖していない可能性があることが分かってきた。一方、大型の肉食魚で釣り人に人気の高いレイクトラウトは増えているとみられる。

 因果関係は今のところよく分かっていないが、ヒメマスがレイクトラウトに捕食されている可能性は否定できない。両種とも中禅寺湖を代表する魚である。共存できる可能性を探りたい。それには、ヒメマスが自然繁殖できる環境づくりが必要だ。

 ヒメマスは湖を2~3年回遊した後、湖に注ぐ川へ遡上(そじょう)して秋に産卵する。中禅寺湖漁協はこの習性を利用して捕獲し、卵を人工ふ化させて翌春に稚魚を放流する事業に取り組んでいる。

 2011年の東京電力福島第1原発事故の影響で、湖から魚の持ち出しが規制された。それ以降は釣り環境が激変し、19~23年はヒメマスの釣果や遡上がほとんどなくなった。規制により、食物連鎖の上位にいるレイクトラウトが増加し、ヒメマスの減少につながったとの見方がある。

 このため水産技術研究所日光庁舎と漁協、県が原因の究明に向けて20年から調査を始めた。目印として放流する稚魚のヒレの一部を切り取り、捕獲したときに放流由来か自然繁殖かを見分けられるようにした。レイクトラウトに捕食されにくいようにと、従来より大きい稚魚も放流した。

 その結果、24年秋には前年を大きく上回る751匹の遡上が確認できた。ほとんどはヒレのない放流由来のものだった。自然繁殖していないことを示唆している。原発事故以前の環境との変化は、さらに調べる必要があろう。

 大型稚魚の遡上率は、従来よりも下回った。これは想定外の結果だった。原因の究明が待たれる。

 レイクトラウトを目当てに中禅寺湖を訪れる釣り人は、年間約2万人。その経済効果は1億円超との試算もある。国内で公式に釣りが認められているのは中禅寺湖だけ。ヒメマスがほとんど釣れなくなった現在、観光資源としての重要度は増している。

 食味の良いヒメマスもまた、大切な観光資源である。秋に婚姻色で真っ赤に染まったヒメマスの大群は「川の中の紅葉」とも言われる。復活を願う関係者の努力が実ることを期待したい。