地域に親しまれる歴史文化資源と保存活用に取り組む団体の活動を認定・支援するため、宇都宮市が創設した市民遺産制度「みや遺産」が5年を経過した。認定件数は22件に上り、地域住民が地元の資源に誇りを持っていることがうかがえる。貴重な歴史文化を市民に広く認知してもらえるよう、市は認定遺産の発信などにも力を入れてほしい。

 本県が誇る文化財といえば、観光資源としても名高い世界遺産「日光の社寺」や足利市の国宝「鑁阿(ばんな)寺本堂」などが思い浮かぶ。一方、みや遺産は地域の歴史的建造物や名木、伝統行事や祭礼のほか、古墳や城跡を核としたイベント、学校や市民団体が取り組む文化財の愛護活動などが対象である。

 文化財指定の有無に関わらず「地域の宝」として愛される歴史文化資源を幅広く認定する点が大きな特徴で、遺産や団体活動のPRに活用できるほか、遺産の修理費などの補助対象にもなるという。

 宇都宮市は2020年度から毎年度、地域の推薦を受けた申請団体の資源認定について市民遺産会議で検討。今年3月に認定された中岡本町の「申内(ざるうち)の天棚と伝統行事」と逆面(さかづら)町の「天下一関白流神獅子」は、保存用の建屋建設や行事継承のための地域活動などが高く評価された。いずれも市民が地元の地域資源に愛着と誇りを持っていることの証しであり、後世に引き継ぐために心血を注いできた思いには頭が下がる。

 しかし初年度に9件、その後も各年度4、5件が登録された遺産も、ここ2年は申請自体が2件ずつに減少している点が気がかりだ。市文化都市推進課の担当者は「認定後の活動の継続には、地域住民同士の理解と協力が不可欠。申請に至るまでの調整が難しいのでは」と懸念する。

 認定された遺産は各地域で保存・継承活動などが続けられるが、地域頼みだけでは認知度は限定的になりがちだ。遺産保護や登録への機運醸成は、全市的に理解されてこそ高まるものではないか。

 これまで認定されたのは祭礼、行事から建造物まで幅広い。そこで保存・活用の様子を映像化して市民に紹介するなど、市には積極的な支援を検討してもらいたい。市民一人一人が「自分たちの宝」だと思える環境づくりが進めば、貴重な地域資源の継承にもつながるだろう。