約1万2千本の巨木が立ち並ぶ日光杉並木街道は今年、植樹開始から400年目の節目を迎えた。本県が世界に誇れる貴重な文化遺産であるが、現状は厳しい。杉の老齢化や自然災害、生育環境の悪化などにより、台帳で記録がたどれる1961年に比べると約4千本も減っている。
荘厳な景観を守り次世代に引き継ぐには、樹勢の回復などの保護活動が欠かせない。同時に、保護した場所を活用し、県民や観光客に文化財や観光資源としての価値をアピールする必要がある。植樹400年の記念の年は、その絶好の機会である。
日光杉並木街道は、日光街道と例幣使街道、会津西街道の3街道にまたがる。総延長は約37キロ。国内で唯一の特別史跡と特別天然記念物の二重指定を受けており、「世界一長い並木道」としてギネスブックにも掲載されている。
並木杉は徳川家康(とくがわいえやす)の死後、日光東照宮が造営された頃に家康の家臣であった松平正綱(まつだいらまさつな)・正信(まさのぶ)の親子2代により、二十数年かけて植えられた。当時植樹された杉は、約5万本とも伝えられる。
県は92年に日光杉並木保存管理計画を策定、それをさらに発展させた同保存活用計画を2019年に策定した。
これらにより杉並木の保護は大きく進んだ。特に樹勢回復のため新たな道路整備の工法を採用したり、バイパスを整備して一部区間を通行止めにしたりするなどの事業は、高く評価できる。
問題は、保護しても文化財や観光資源としての価値が広く県民に伝わらないことだ。通行止めにした区間が放置され、枯れ枝や落ち葉が堆積して人が寄りつけなくなっているのは、典型的な悪例である。
並木杉の所有者は日光東照宮、道路の管理者は県であり、責任の所在が曖昧になっていることにも問題がある。通行止めにした区間の活用については地元の日光市も交え、3者で徹底的に話し合ってはどうか。
日光東照宮の参道で行われている流鏑馬(やぶさめ)や千人武者行列を杉並木街道で実施するなどの思い切った策でもあれば、県民や観光客の関心も高まったろう。残念ながらそうした大がかりな仕掛けのないまま、400年の節目を迎えた。
貴重な文化遺産を次世代に引き継ぐにはどうすればよいか。この機会にしっかりと再確認したい。