東京都内有数の文教エリアとして知られる文京区には、日本で最古の近代植物園「小石川植物園」がある。東京大学の付属施設として植物学の研究・教育が行われてきた園内を歩いた。(共同通信=團奏帆)
都営三田線の白山駅から西に約10分歩くと、塀越しに植物園の豊かな緑がのぞく。1684年、徳川幕府が小石川御殿の敷地内に薬園を置いたのが始まりで、8代将軍吉宗の時代に拡張されてほぼ現在の形(約16ヘクタール)になったという。
正門を抜けて坂道を上ると、約70万点の押し葉標本や研究室を備えた本館が立つ。塔を中心としたL字形の建物は、東京大の安田講堂を手がけたことで知られる内田祥三の設計だ。付近にはかつて研究室だった「柴田記念館」もあり、植物園やゆかりの人物にまつわる展示を見られる。
広大な敷地を散策すれば、そこかしこに興味深い植物が生えている。種子植物にも精子が存在するという発見の研究材料となった大イチョウ、ニュートンの生家にあった木から接ぎ木した「ニュートンのリンゴ」、遺伝学の基礎を築いたメンデルが実験に用いたブドウの分株―。イロハモミジ並木やツバキ園も目を楽しませてくれた。
江戸時代の名残をとどめるのが、朝廷や幕府に献上する薬草を干した石畳が残る「乾薬場跡」や「旧養生所の井戸」。山本周五郎の小説「赤ひげ診療譚」でおなじみの「小石川養生所」で使われた井戸は、関東大震災の時には避難者の飲み水として役立ったという。
西側に広がる日本庭園の一角には、明治初期の擬洋風建築「旧東京医学校本館」(現・東京大学総合研究博物館小石川分館)も。東京大関連で現存する最古の建物で、国の重要文化財に指定されている。
駅へ戻る途中、将軍家との関わりが深い白山神社を参拝した。梅雨時にはアジサイが咲き乱れるという境内には、金色の目を持つこま犬がたたずんでいた。
【メモ】植物園の入園料は大人500円、子ども150円。