『青に落雷』1巻の表紙(C)虹沢羽見/集英社

 『青に落雷』より(C)虹沢羽見/集英社

 『青に落雷』より(C)虹沢羽見/集英社

『青に落雷』より(C)虹沢羽見/集英社

 「りぼん」2025年5月号より(C)集英社

 「きみに染まる」(C)虹沢羽見/集英社

 『青に落雷』より(C)虹沢羽見/集英社

 『青に落雷』1巻の表紙(C)虹沢羽見/集英社  『青に落雷』より(C)虹沢羽見/集英社  『青に落雷』より(C)虹沢羽見/集英社 『青に落雷』より(C)虹沢羽見/集英社  「りぼん」2025年5月号より(C)集英社  「きみに染まる」(C)虹沢羽見/集英社  『青に落雷』より(C)虹沢羽見/集英社

 初々しい初恋の物語に、時間を忘れてひたってしまう。「りぼん」で連載中の『青に落雷』は、少女はもちろん、少年も大人も楽しめる学園青春漫画。考え抜かれたキャラクターの魅力に、2002年生まれの作者・虹沢羽見(にじさわ・うみ)さんのイマドキ感と純粋さが加わり、作品を温かい印象に仕立てている。執筆の舞台裏を聞くと、作品の魅力の秘密と「りぼん」の伝統、そして漫画家になる道筋も見えてきた!

【あらすじ】弱気で、男子が苦手な女子高生・華田青空(はなだ・せいら)が通う女子校が「生徒数の激減」により、近くの男子校と合併することに。そこでクラスメートになったのが、大胆不敵で自由奔放な藤雷河(ふじ・らいが)だった。周りの空気を壊さないように気遣ってきた青空は、自分とは全く異なるタイプの雷河にだんだんと心引かれていく。けれど、その恋路にはライバルも現れて…。

(1)自信のないヒロインに共感

▼記者 まず、キャラクターの性格が、非常に繊細に考え抜かれていることに驚きました。青空も雷河も、パキッとした分かりやすいキャラクターではなく、複雑な内面を持っています。弱気なヒロインに描きにくさはありませんか?

●虹沢 青空は連載が始まった頃は描きづらかったです(笑)。少女漫画は、ヒロインが魅力的でなくてはいけなくて、一般的に元気で明るいヒロインが好かれているのは分かっていました。青空は気が弱いし、人によっては嫌いかもしれない。でも私は結構好きなタイプで、読者のみんなに嫌いになってほしくないなと思っていました。どうしようか迷っていた時、担当編集者の汪瀛(おう・いん)さんが「自信がないヒロインだけど、それでもいいと言ってくれる物語なら、自信がない読者はうれしいんじゃないか」と言ってくれて。それがすごく残って、心の支えにして描いてきました。

▼記者 青空のシャイな感じは、とてもリアルに感じるんですよね。『青に落雷』を読む大人は、自分もこんな時があったな…と共感できるというか。

●虹沢 ありがとうございます。

▼記者 その青空は、近刊になればなるほど、しっかりとものが言えるようになっていきます。1巻では、男子におびえ、言葉を詰まらせるシーンが多かったのですが、雷河への「好き」という気持ちに向き合っていく中で、どんどん成長していきます。ある男子がいじわるをしてくるシーンで、「あの頃から ずっと逃げてる 逃げて逃げて 変わったものはなんだ」と自分に問いかけ、勇気を出して対抗していたのは、ぐっとくるものがありました。

●虹沢 弱くても立ち向かう青空のことが好きだと言ってくれる読者さんが多くて、その言葉に支えられています。「青空のすてきな部分」に、私自身が自信を持てるようになってきたのも大きいと思います。

▼記者 その青空とともに、雷河も成長していきますね。

●虹沢 雷河は、初めは描きやすかったけど、青空と反対にだんだんと難しくなっています(笑)。もともと雷河は、女子をときめかせるために意図的に何かをするタイプではなく、周りを自然と好きにさせる感じのイメージでした。「俺のこと好きなの? そっか、ありがとう!」と言ってどこかに行っちゃうような感じというか。

▼記者 かっこいいですよね~。

●虹沢 それに加えて、青空の彼氏という顔も持つようになり…。

▼記者 雷河が恋を自覚し始めた頃、青空が他の男子と仲良くなるのを「仲良くなれてよかったなって思うのに 仲良くなんなって思う」という率直なセリフはキュンとしました。

●虹沢 彼氏になった雷河に苦戦したのは、雷河がどんな動きをするのか、はじめは分からなかったからです。連載前に考えたキャラクターの設定表を見直したりして、ものすごく考えました。かっこよく感じてもらえていたらうれしいです。

(2)憧れられる未来を描く

▼記者 『青に落雷』には、青空と雷河の恋路のライバルとなる「麗果(うるか)先輩」というキャラクターが登場します。ダンス部で、運動神経抜群で、大人っぽくて…。それでいて人格者という、非の打ちどころのないライバルです。さらに、あざとい性格の「アリアちゃん」も登場し、青空はいじわるな言葉を投げかけられたりします。しかし、青空は麗果先輩やアリアちゃんとも仲良しになり、結果的に『青に落雷』には完全な「悪者」が登場しない物語になっています。これは意図的なことですか?

●虹沢 はい、意識してやっています。

▼記者 どういう背景があるのでしょうか。

●虹沢 中学生以下の読者さんに、高校って楽しそうだと憧れてほしいからです。

▼記者 なるほど。

●虹沢 SNS(交流サイト)で女子高生たちがきらきらした日常をアップしたりすると、子どもたちが憧れのコメントを残す一方で、大人たちが「これが現実だと思うなよ」とか「高校生活に期待するなよ」というようなコメントをするのを見かけていて、前々から気になっていました。事前に忠告するのも意味はあるのかもしれないけど、そればっかりでいいのかなって。

▼記者 夢がないですよね。

●虹沢 憧れないと、楽しい未来は始まらないと思うんです。私自身も中学生の時、友達と「高校行ったら寄り道してここ行ってみない?」とか「体育祭で一緒にメガホン作ろうね」とかって話す時間がとても楽しかったから…。私の漫画を読んで、お友達との楽しい時間の材料になれたらいいなと思っています。

▼記者 だから、アリアちゃんを完全な悪者として描かず、楽しい世界観の中に収める展開なんですね。

●虹沢 そうです。アリアにはアリアなりの正義や考え方があって、行動には理由もある。ただ、そのアリアと打ち解けて友達になるには、青空に頑張ってもらうようにしています。「行動したからつかめた未来だよ」っていうのを描きたいので。

(3)徹底的に漫画を勉強した中学時代

▼記者 虹沢さんも、漫画家を目指して小学5年生の時から「りぼん」に投稿を重ねられています。なぜ「りぼん」を目指されたのですか?

●虹沢 母が「りぼんっ子」で、私が描いた絵を見て「漫画家を目指してみたら?」と勧めてくれたからです。しかもちょうどその頃「りぼん」で小学生だけが応募できる漫画賞(「りぼん小学生まんが大賞」)を開催していました。とはいえ、最初に投稿したのは4コマ漫画で、3ページだけ。原稿用紙のサイズも間違えてしまいましたけど、下から2番目の賞で雑誌に名前が載ったのがすごくうれしくて。次も投稿してみようと思いました。

▼記者 雑誌に名前が載るのはうれしい体験ですよね。

●虹沢 小学6年の時には、ちょっとだけ大きな賞に入選することができて、漫画家さんからコメントをいただけたり、編集部から手紙や漫画の道具が送られてきたりしました。でも、小学生まんが大賞は、一番大きい賞を取ってもデビューはできなくて、「りぼんまんがスクール+」に投稿しないといけません。中学生の時は、四コマのギャグ漫画を毎月のように送ったこともありましたが、ずっと「Bクラス」でした。

 ※「りぼんまんがスクール+」とは…

 『りぼん』誌上で毎月開催している漫画賞。上から「りぼん賞」「準りぼん賞」などがあり、入賞作の下がA~Cクラスで評価される。誌面で編集部からの選評が受けられる。

▼記者 順風満帆というわけではなかったのですね。

●虹沢 そうですね。漫画も読んでないし、研究もできていない。そう実感して、中学1~3年まで漫画を徹底的に勉強して、中3の時にあらためて「りぼんビッグドリーム漫画賞」にストーリー漫画を投稿して、大きな賞を頂きました。すぐ後の「りぼん まんがスクール+」で努力賞を頂いて、汪さんから電話がかかってきたんです。私が「デビューしたいです」と言ったら、真剣に向き合ってくれて…。

◆汪 当時、とんでもない才能が現れたと、編集部が大いに沸き立ったことを覚えています。

(4)私の思う「かっこいい」を深掘り

▼記者 虹沢さんの作品のどのあたりが高い評価を受けたのでしょうか。

◆汪 エピソードの演出力、画面の構成力、キャラクター造形のセンス…といろいろ魅力はありますが、いい意味で少女漫画の型にはまっていないところが、新鮮でした。

▼記者 『青に落雷』も、弱気なヒロイン、悪者が存在しないなど、型にはまっていない作品ですよね。そして虹沢さんは高校2年の時、「りぼんまんがスクール+」で漫画「きみに染まる」が準りぼん賞を獲得し、デビューされます。漫画家と、学業の両立は難しかったのでは?

●虹沢 締め切り前は泣きながら描いていました(笑)。『青に落雷』の前に読み切りをいくつか描いたのですが、原稿用紙やペンの使い方から勉強だったし、時間に追い詰められてました。読み切りはネームをコンペに出す必要があるんですが、新作ネームのキャラクターで詰まってしまって…。汪さんから「恋に夢中になる主人公はかわいいけど、なんでこの男の子にそこまで夢中になるのか共感できない」と言われた時にハッとしました。

▼記者 なるほど。

●虹沢 当時は、少女漫画のヒーローって、イケメンでクールで無口でひょうひょうとしていて…みたいな思い込みがあって、漠然としちゃっていた。だから、私が思うかっこいい男の子を掘り下げようと思って、もっと暴君で、笑顔で…と考えていったら、汪さんに褒めてもらえて。こういうヒーローなら、こういうヒロインなんじゃないか…と、キャラクターが深まって『青に落雷』につながりました。

▼記者 キャラクターの個性を深掘りしていくその経験が、『青に落雷』にも生きているんですね。

(5)「りぼん」のヒロインが助けてくれる

▼記者 最後に、虹沢先生にとって、「りぼん」とはどういう場所ですか?

●虹沢 私自身、「りぼん」のヒロインにたくさん助けられてきました。自分と同じような悩みを持ち、壁にぶつかっても、落ち込んでも、それを乗り越えてくれた。漫画って自由だから、乗り越えないで落ち込んでいく物語もあってそれも面白いけど、「りぼん」は乗り越えてくれたんです。

▼記者 とても心強い存在だったんですね。

●虹沢 はい。そのときのヒロインの言葉を胸に、私も挑んでいける。読者のみんなにとって、『青に落雷』がそんな作品になれるように、頑張っていきたいです。

【虹沢羽見】 2002年鹿児島県生まれ。2018年に「きみに染まる」でデビュー。初の連載『青に落雷』は2022年開始で、既刊7巻。

(取材・文=共同通信 川村敦)