国会での憲法論議が活発さを増している。先の衆院選で自民党が大敗して「改憲勢力」が、改憲の国会発議に必要な議席を衆院で失った。結果として改憲が遠のき、憲法について与野党が落ち着いて議論できる環境になった。

 衆院憲法審査会(憲法審)は、初めて野党議員が会長に就いた。立憲民主党の枝野幸男(えだのゆきお)氏である。与党筆頭幹事は本県選出で自民党の船田元(ふなだはじめ)氏。両氏は宇都宮高の同窓であり、旧衆院憲法調査会で与野党協調路線を重視した故中山太郎(なかやまたろう)会長の門下生でもある。

 憲法制定から78年がたち、日本を取り巻く国際情勢や社会のあり方は大きく変わった。憲法は一字一句変えてはならない「不磨の大典」ではない。枝野、船田両氏は国会で憲法論議が深まるよう、与野党の環境整備に努めてもらいたい。それには現実味のある議論を進めることが肝要である。

 枝野氏は会長就任後、憲法審を5月まで毎週1回開催することを決めた。その上で、議論するテーマをあらかじめ設定し、各党内で議論を深めるよう促した。それまでは各議員が個人の意見を披歴するだけで、かえって議論の妨げになることもあった。憲法審が言いっ放しの場でなくなることは歓迎したい。

 現在、最も熱いテーマは臨時国会の召集期限である。憲法53条は、衆参どちらかの4分の1以上の要求があれば、内閣は臨時国会の召集を決定しなければならないが、期限は示されていない。安倍晋三(あべしんぞう)元首相に続く歴代内閣は、野党の要求を無視し続けてきた。

 立民は「召集要求から20日以内と明記する改憲なら、検討の余地がある」と踏み込んだ。日本維新の会、国民民主党もこれに同調している。これに対し、自民は現時点で明確な見解を示していない。早急に党内の意見をまとめ、提示すべきだろう。

 衆院憲法審ではこのほか、緊急事態における国会議員の任期延長や憲法改正における国民投票でのフェイクニュース対策など、さまざまな議論がなされている。

 どれも結論はまだ出ていないが、与野党の対立で憲法審を開くことすら困難だった安倍政権時代に比べれば、雲泥の差と言えよう。改憲勢力が3分の2を超えていた安倍政権は、歴代の自民党政権の中でも突出して改憲に前のめりだった。自民が望むテーマではないとはいえ、少数与党下で憲法論議が進んでいるのは、皮肉な現象とも言える。

 船田氏は自身のメールマガジンで、「少数与党の立場をチャンスと捉え、野党の意見も取り入れつつ、現実的な妥協点を見いだすことも可能ではないか」と記した。その言葉通り、与党をまとめて議論を進めてもらいたい。

 デジタル技術は人類に新たな可能性を示す一方、交流サイト(SNS)では誹謗(ひぼう)中傷による人権侵害を引き起こし、拡散される虚偽情報が社会の分断を招くなど、選挙に影響を及ぼす時代にもなった。憲法が保障する「表現の自由」を守りながらどう規制するのか、早急な対策も必要だ。

 78年前に想定できなかった事態に、憲法は対応できているのか。不断の検証が欠かせない。与野党で合意形成を見いだす機運が醸成されている今こそ、議論を進めるよいチャンスである。