踏切が設けられていないにもかかわらず、住民らが日常的に線路を横断している「勝手踏切」が全国的な問題となっている。国土交通省の2024年12月時点の調査で国内には1万5553カ所あり、本県は前回調査(21年1月)より32カ所増の231カ所が確認された。
フェンスなどで周辺を封鎖するには高額な費用がかかる上、近道などで使う地域住民から反発の声が出るケースも各地で相次いでいるという。本県では過去に勝手踏切で死亡事故が発生している。住民の安全意識向上へ鉄道事業者や行政は一層の啓発活動などに注力し、官民一体で事故防止を図るべきだ。
勝手踏切の明確な定義はなく、国交省は全国の鉄道事業者を通じ「踏切として認めていないが、明らかに線路横断の形跡やその情報がある箇所」を調べた。勝手踏切は線路がむき出しになっており、遮断機や警報器もなく、より危険性は高い。横断すれば、鉄道営業法違反などに問われる可能性もある。
本県では14年12月、益子町七井の真岡鉄道線路内の勝手踏切で、当時中学1年の男子生徒が下り列車にはねられ死亡する事故が発生した。現在の現場は雑草が茂り横断しにくい状態だが、約100メートル北にも住民が田んぼへの行き来で横断する場所がある。
こうした現状に同社の担当者は本紙の取材に「ローカル線として住民の生活に密着している分、地域の理解を得られないと対策は難しい」と苦しい胸の内を明かす。
そもそも勝手踏切は、あってはならない行為だと自覚すべきだ。線路内の無断侵入は同法違反、列車などの運行に支障を来せば刑法に抵触する恐れがある。事故が起きれば鉄道事業者側から多額の損害賠償を請求される可能性も否定できない。こうした認識をまず地域住民らが共有し、安全意識を高めてもらいたい。
一方、鉄道事業者と行政も地元自治会などと協議の場を設け、危険な横断をなくす啓発活動に努めるべきだ。その上で住民側の利便性や安全性に配慮した取り組みとして何ができるのか、官民の連携強化が求められている。
遮断機や警報器がない「第4種踏切」の安全対策が県の協議会で話し合われている。勝手踏切の実態把握や対応策も、協議会で今後検討すべきだろう。