県は今月、高度救命救急センターの設置を検討する方針を示した。急速な高齢化などに伴う救急医療提供体制の充実策を探る重要な要素である。立ち上げの考え方を巡って関係者に温度差はあるが、県民の安全安心に資する最適解を見いだすため、議論を尽くさねばならない。

 県内の救急搬送人数は増加傾向で、2023年は約8万5千人に上った。高齢者や中等症患者の搬送が急増し2次、3次救急医療機関に集中。搬送要請から収容までの時間も延びている。そうした変化について、医療サービスを受ける側も認識したい。

 救急医療の体制充実に向け、有力な方策の一つが高度センターの設置である。基本的な機能は、重症熱傷など現在の救命救急センターで受け入れが難しいとされる患者の治療だ。県は既存体制で一定の対応がなされているとして、高度センターを関東で唯一設けてこなかった。実際、県内の5救命救急センターは23年、高度センターがあれば対応すべき患者を約130人受け入れている。

 さらなる需要などに鑑み、設置検討へかじを切った。高度センターがその機能を発揮すれば、2次、3次救命救急医療機関の機能も改めて認識され、機能分化の明確化も期待される。県民の安心感確保へ一歩前進と言えよう。

 県が設置検討の方針を明らかにした検討委員会ワーキンググループで、委員の医師は、地域の救急・災害医療の統括機能なども必須と求めた。医師確保の求心力を持つ施設となることも念頭に「集中治療室(ICU)など十分な機能を備え、人手不足の救急医療機関に医師を派遣できてこそ高度センター」との訴えだ。目指すべき姿である。

 一方、県側は既に救命救急センター機能を備えている自治医大付属病院、獨協医大病院、済生会宇都宮病院に高度センターを設けることに前向きな姿勢である。「取り組めるべきところから取り組むべきだ」などと説明。将来的な機能充実にも理解を示しており、その道筋を明らかにしてほしい。

 検討委は、今夏をめどに提言をまとめる方針だ。県は、患者受け入れコーディネーターの配置支援といった多くの施策案も示している。医師や財源の確保など課題も踏まえ、総合的な方向性を見いだすことが重要である。