県内でクマの目撃が相次いでいる。2024年度の件数は255件と過去10年で最多。本年度も既に24件(22日現在)確認され、人里近くに出没し人を怖がらない「アーバン・ベア」の目撃も相次いでいる。クマと遭遇する危険性の高い登山時に限らず、人的被害が生じないよう警戒の強化に努めたい。

 県自然環境課は「直ちにクマの生息範囲が拡大しているとは言えない」とするが、個体数は確実に増えている。3月策定の県ツキノワグマ管理計画(5期計画)によると、24年度は県内に961頭いたと推定されている。これは10年前の倍以上に当たる。

 耕作放棄地の増加で人の生活圏との境界があいまいになっていることも一因とされる。県がクマの生息地として同計画の対象地域としているのは足利や日光、那須など9市町。しかし山はつながっており、昨年8月には計画対象外の宇都宮市北部の大型分譲地近くでも確認された。クマの行動範囲は拡大し、その影は人里に及んできている。

 こうした状況を受け県は昨年度、市街地にクマが出没した際の関係機関の連携を確認する訓練を初めて実施した。追い払いから、発砲して捕獲する流れを確認したといい、本年度も行う予定という。

 クマの目撃増加は全国的な傾向で、人の生活圏に侵入したクマを自治体の判断により銃で駆除できる改正鳥獣保護管理法が4月に成立した。一方、市街地での発砲を巡っては北海道で18年8月、砂川市の要請を受けてヒグマを駆除したハンターが「建物に弾丸が当たる危険性があった」として、後に猟銃所持許可を取り消される事態があった。現在、環境省は改正法の運用に関するガイドラインの策定を進めており、県も「情報収集に努め、市町との連携を深めたい」とする。運用を踏まえた対策、訓練は不可欠だ。

 県は2月下旬、那須塩原市中塩原など県内3カ所に鋼材製のごみステーションを設置した。クマにたたかれても壊れず、臭いも外に漏れづらい。クマの学習能力の高さを逆手に取り「餌がない」「開けられない」ことを学ばせ、寄りつかせないようにする目的だ。県は1年かけて効果を検証するという。

 生態系の維持には、その頂点に立つクマと共存する以外に道はない。被害を防ぐあらゆる手だてを講じたい。