次世代型路面電車(LRT)のJR宇都宮駅西側延伸事業は、宇都宮市が3年前に公表した概算事業費の1・8倍に上る約700億円になる見通しとなった。
市が今月公表した。物価高に伴う資材や人件費の高騰に加え、昨今の円安も事業費を押し上げた。やむを得ない側面はあるとはいえ、おいそれと容認できる価格水準ではない。市はコスト縮減へ最大限の知恵を絞るべきだ。
事業費高騰の理由について市は、車両価格が2倍になった上に需要予測に合わせて増車した結果、車両購入費が4倍になったことや、車両を待機させる車両留置施設を沿線の西端付近に整備することで、用地取得費が加算されたことなどを挙げている。
共に事業を推進する立場の県は、気をもんでいるようだ。福田富一(ふくだとみかず)知事は定例記者会見で、一定の理解を示した上で「コスト縮減について考える必要がある」と、市にくぎを刺している。
知事発言の背景には、県首脳の間に「車両価格が高過ぎる」との認識があるという。現在の車両は少量生産でコスト削減が難しい。組み立ては国内企業だが主要部品が外国製で、事実上の「輸入車」でもある。路面電車のメーカーは他にもある。車両の調達先を複数から選ぶことでコストを下げる方策も考えたい。
西側延伸事業で最大の難所は、JR宇都宮駅の東西を横断する工事である。3年前の見積もりでさえ、この箇所だけで100億円はかかるとされていた。「昨今の物価高を考慮すれば、1・5~2倍になっても不思議はない」という関係者もいる。
今後の需要予測をにらみながら、コスト削減策として駅横断工事を一時棚上げするのも一案である。JR宇都宮駅西口から教育会館までを、まずは先行開業する。事業が成長軌道に乗った頃合いを見て市民の理解が得られれば、東西接続に着工する。西端の車両留置施設で車両整備ができれば可能、との見方もある。そもそも電車の乗り継ぎは、東京都内では当たり前のことでもある。
宇都宮市の佐藤栄一(さとうえいいち)市長は、先の市長選で西側の開業を「2030年」と公約にした。22日の定例記者会見でも「それは変わっていない」と述べた。駅横断工事は時間も金もかかる。必ずしもこだわらない柔軟さも求められる。