憲法改正の是非を問う国民投票は、国の在り方、行く先を決める重い1票となる。その判断が、インターネット上の偽情報などによってねじ曲げられるようなことがあってはならない。
今国会の衆院憲法審査会では初めて、国民投票を巡るフェイクニュース対策の議論が行われた。憲法が保障する「表現の自由」との兼ね合いから規制に関しては意見が割れるが、それ以前にまずはわれわれマスメディアを含め社会全体で偽情報への「免疫力」を高めることが必要だろう。
昨年11月の兵庫県知事選や名古屋市長選など、SNS上の虚偽の書き込みや真偽不明の情報が選挙結果に影響を与えたとされるケースが相次いだ。同様の事態は国民投票でも懸念される。
衆院憲法審会長代理の自民党船田元(ふなだはじめ)氏は「国民投票においては外国勢力が入ってくる可能性が高くなる」と指摘。「個人の投票行動は健全な情報によって決まるべきだ」と主張している。
国民投票法が制定された2007年当時は想定していなかった課題だ。国民の自由な議論を重視する国民投票運動は、公職選挙法で定められた選挙運動よりも規制が少なく、インターネットの利用やネット広告期間に制限はない。
憲法審では与野党ともに、対策の必要性についてはおおむね一致している。一方、規制に関しては憲法21条で定める表現の自由への配慮から否定的な意見もあり、着地点は見いだせそうにない。
有識者への参考人聴取では、桜美林大の平和博(たいらかずひろ)教授が「オオカミ男を倒す銀の弾丸は存在しない」とした上で「誤った情報は、情報の空白に浸透しやすいと複数の研究で指摘されている。正確で分かりやすい情報が行き渡ることが重要」との考えを示した。
東京大大学院の鳥海不二夫(とりうみふじお)教授は「偽情報に関して知識を得ること自体が最大の対策」と述べ、国民の情報リテラシー(知識や判断力)を高める必要性を訴えた。
国の最高法規である憲法の改正に当たっては、より高い次元での対策が求められる。法規制などの議論は時間を要しそうだが、メディアによるファクトチェック(正確性の検証)や研究、リテラシー教育も重要だ。総合的かつ継続的な取り組みによって、健全な情報環境を整えなければならない。